プライベートバンキング(東京三菱とメリルが新証券設立)


日経新聞の17年3月4日号夕刊と5日号が、東京三菱(BTM)とメリルリンチ証券が合弁で富裕層特化型証券会社設立のニュースを大きく掲載していました。日本最大の金融コングロマリットになる予定のBTMと世界最大の証券会社であるメリルの合弁ということと、メリルが商品開発でBTMが営業という製販分離のビジネスモデルが新鮮に見えるのでしょう。

記事によると、資本金は両社折半で百億円以上、BTMから50人、メリルから百人の社員とともに、メリルからは1兆円のPB預かり資産が新会社に移る予定です。BTM・UFJの両行が統合すると総資産190兆円、4千万口座ですが、個人からの預かり資産は65兆円ということです。そのうち、40兆円が預金残高1億円以上の富裕層で、預り資産1千万以上の顧客数は200万だそうです。その2%弱が1億円以上の層だと推測できます。0.1%の個人客が個人預り資産の61%を保有しているということになります。BTMが富裕個人に強いのは知られていますが、日本には極端な貧窮層がいない反面、米国に並ぶほどジニ計数が高いことを考えれば、容易に納得できる数字です。

地方銀行の話を聞いても、個人顧客の2、3%で全体収益の大半を得ている状況です。我々、一般大衆が多少の預金をして顧客の権利を主張しても、所詮は富裕層の提供する銀行収益によって銀行サービスを享受していることを認めざるをえません。それが意に染まないからと言って、富裕層との取引ウェイトの低い銀行に取引を替えても、その構造に変わりはありません。銀行のコモディティ・サービスはそれ程儲からないのです。米国で、富裕層が住む地域の生活インフラが充実しているので、周辺に貧困層が集まるのと同じ理屈でしょう。それが、市場原理ということでしょう。行政は、この層を守ろうとするでしょうが。例えば、偽造カード対策ですが、銀行には大変なコストがかかります。しかし、富裕層は顔パスですし、現金も銀行が集配しますので、偽造カードの被害に遭うこともないでしょう。守り方が随分とズレているように見えます。

似たような数字が、ニッキン3月4日号にもありました。新光証券のラップ口座に関する記事です。大和証券に次いでラップ口座に参入した新光証券は、昨年12月から今年の2月迄で100口座を獲得したそうです。その預り資産は50億円です(口座当たり5千万円)。全営業員の2800人が勧誘しているとしても、たった5人のコンサルタントが担当しているそうです。その効率のよさが理解できます。コンサルタントを20から30人に増やして早期に預り資産1000億円を目指すということです。その新光証券とミレア・グループが包括提携するという記事が3月5日付け日経に掲載されていました。

プライベートバンキング(PB)は最近ではウェルネス・ビジネスという言い方で、5千万とか1億円以上の顧客を対象とする傾向になっています。日本でも数年前から強化されているビジネス分野ですが、いま一つ軌道に乗っていません。各金融機関ともに、専門組織を作るのですが、成功事例が出てきません。昨年、シティ・バンクがコンプラ違反で撤退を余儀なくされ、その顧客をターゲットにしてUBSやチェースが参入するという話もありますが、その顧客たちは既に新しい金融機関に移っています。メリルが山一証券の営業部隊の大半を引き受けたのもPBが目的でした。日本の銀行も、数々の試行錯誤をしてきましたが、過去の失敗施策のリトライが許されない銀行風土によって選択肢が奪われているのが実状です。

みずほグループが全国で約700人の専門部隊を展開して業績をあげつつあります。ペイオフが契機となり、また、顧客の金融に関するスキルが上がってきたこともあり、PBが認知され出したようです。金融機関の側も、富裕層との取引手法を学習したとも言えるでしょう。証券のラップ口座や損保の総合保険など富裕層向け商品も普及し出しています。金融所得一体課税が導入されれば、銀行(特に信託)が得意とするカストディも受け入れられるでしょう。PBは黎明期から普及期に入りつつあるようです。

ある大手銀行では、数年前にPB専用システムを導入しました。ただ、緻密なCRMという程度であるため、営業支援効果は限定されています。提携や代理店も使って、顧客へのコンサルティングとクロスセル、セットセルの販売プロセス最適化のためにプロセスとデータのアロケーションが技術的に重要です。海外系のPBパッケージを二、三調べてみましたが、どうも日本には馴染まないようです。制度そのものが全く異なるのは承知していますが、日本人の金銭感覚や財産に対する価値観を理解していないので、シナリオが違いすぎるようです。やはり、富裕個人自身が開発する他ないように思います。