証券仲介と銀行代理店


日経新聞17年2月17日号の記事です。昨年12月に解禁された証券仲介において、大手銀行が順調に滑り出して、取扱い店舗を増やすなど対応強化を急いでいるということです。

大手銀が積極的な対応を図ったのに対して、地銀など地域金融機関は証券仲介に対する方針が定まっていないというか、慎重な姿勢を続けているのが実状です。マスコミとしては(日経だけではないのですが)多くの銀行が参入して競争してくれれば何かと記事ネタになると考えていたようですが、実体は静かなものです。一方、証券会社は、銀行チャネルを他社より少しでも多く確保したいということで積極的な提携交渉を進めています。ですから、報道されるのは、どの証券会社が何行の銀行と提携したという報道ばかりです。

この記事によりますと、三井住友は400店舗、5千人の外務員資格取得者が営業し、店当たり1日1件以上の取扱いで外債の完売を続けているそうです。1日4百件強の商いということになりますが、これが順調と言えるのかどうか。新規参入なので予定よりは好調なのかも知れませんが、証券会社が聞いたら笑い出すような数字とも言えます。プロ営業が20人もいれば簡単に達成できる数字です。他行も似たようなもので、BTMやみずほは実績数値を提示しなかったようですが、UFJでは1月までの2ヶ月で600件の証券口座開設があったそうです。対面を中心とする大手証券会社では、店当たり1万の口座開設客で採算ラインですから、それには程遠い話です。

銀行にとっては、顧客囲い込みという長期的目的と本業の傍らでの手数料収入という短期的目的があるでしょう。少なくとも後者の目的では、さしたる収益は期待できません。地銀が慎重になっている理由の一つです。今日では対面・電話による株式売買仲介手数料は、売買額の1%を大幅に切っています。ネット取引となると更に半分以下で、極端な場合は条件付き無料です。仮に200万円の注文を媒介しても、手数料を提携証券と折半すれば1万円以下です。グループに証券会社を抱えて、東証会員権、事務体制、システムを持っていれば全体としてのビジネス価値はあるでしょうが、そうでなければデメリットが目に付くことになります。

バブル期に15万人いた証券従業員は、現在では7万人台です。最近増員しだしたとはいえ、ピーク時の半分です。東証での出来高や売買総額はピーク時なみです。つまり手数料自由化による低料金化が効いています。商い全体が2倍になれば、業界収入は維持できるのですが、単なる値下げで終わっています。北朝鮮並みの食料危機です。そこに、銀行が観光客のように押しかけたら、更に食料難が進みます。あとは行政が標榜する「貯蓄から投資へ」のスピードと規模に期待するだけなのでしょうか。それとも、金融業界全体で市場商品を強力に推進するのでしょうか。要は時間軸をいかに読むかということになります。

ところで、証券仲介は銀行が証券会社の代理店業務を行うということです。金融改革プログラムで予定される代理店規制の大幅自由化に関連して、大手銀や地銀は自行が代理店を使う前提だけで検討しているようです。自社が代理店になる場合の検討は手薄です。単純取引は別として、複雑取引を行うには商品・事務知識とミドルやバックの事務支援体制が不可欠です。しかし、人材のコストと質を考えれば、銀行は高付加価値ビジネスに寄るほかないでしょう。大手証券では「ネット取引だけでは単なる値下げ競争になるので、情報提供力で差別化する」という戦略がうまくいきませんでした。顧客は大手の情報を使って判断し、ネット専業の安い手数料で取引を行うからです。自然な話です。

対面取引でも、プル型とプッシュ型があります。銀行はプル型の代表ですが、プッシュ型の代表である証券取引の営業が出来るのでしょうか?特に地銀においては、専門部門が数千億円の資金を運用しながら、その利回りは1%前後です。そんな会社の営業が奨める銘柄を買う人がいるでしょうか。単なる注文媒介ならネットで充分ですし。顧客が自分で証券外務員資格を取得した方が低コストです。取得は難しくありません。銀行としては、適度に希少性のある情報と証券アナリスト・レベルの営業が必要となります。

結論としては、一部の大手金融機関を除けば、二番手戦略を選択すべきだということです。但し、決定した後のスピードと基盤顧客との良好な関係維持が前提ですが。例えば、ネット専業の銀行がそれなりに顧客を増やしています。しかし、伝統的銀行が焦る必要はありません。ネット専業銀は、様々な付加価値サービスを工夫してはいますが、基本的にはITによる利便性と低価格だけです。適当な時期に、同レベルの価格で少し上のサービスを提供すれば、その顧客をまるまる貰えるでしょう。ブランド、資金力、IT開発力そして事務処理の堅確性・安定性があれば、クリック&チェンジでオセロ・ゲーム戦略が可能です。真のコンピテンシー確保と代理店を含めたチャネル戦略を策定し、常時見直すことが必要です。