現金輸送サービス(トヨタがアサヒセキュリティを買収)


日経新聞17年1月25日号の記事ですが、トヨタ(正確にはトヨタ自動織機)がアサヒセキュリティの全株式を195億円で買収したそうです。筆者は、この記事を見た途端に「アー、やられた。」と思いました。トヨタが、金融ビジネスのインフラの一つを抑えたと思ったからです。

アサヒセキュリティは、元々、ダイエーの現金輸送会社で,収配金業務の最大手です。それがダイエー再編の一環として、平成14年に資本の90%をカーライルに保有されるようになっています。JR東海やイオンだけでなく、多くの金融機関を含めた1万600社の顧客を持ち、年間売上220億円という業要です。元々が、ダイエー・グループ各店で発生する現金の収集や、朝方に釣銭用小銭を配送する業務から始まっています。仕事は増える一方の成長産業(市場規模7千億円といわれる)なのですが、子会社意識と汚れ作業意識からくるのでしょうか、低価格路線から抜けきれません。高収益体制に変革できなかったのでしょう。

金融サービスやチャネルがどんなにネット化されたといっても、日本では決済件数の半分強は現金です。(振替・振込など、銀行のシステム内で完結する決済が40%強で、クレジットや小切手などが90%以上を占める欧米各国(ドイツを除く)とは、根本的に異なる日本の決済慣習を忘れてはなりません。)小口取引が、カード化或いはネット化され尽くすまで、まだまだ十年以上が必要でしょう。つまり、重くて、危険性が高くて、扱いに手間のかかる現金は、店頭で授受する各種書類と並んで、決済ビジネス合理化の二大阻害要因です。そのことは、我々個人の日常的消費行動を顧みれば、即座に判るでしょう。正月の初詣における神社仏閣のお賽銭を誰が数えて、持ち帰って、口座入金しているのか。その現金袋の重さといえば、経験した銀行員に言わせると、一回でギックリ腰になったということです。それが、大手小売り店や鉄道、高速道路料金所など各所で発生しているのです。こうしたローテク分野を支える人達がいればこそ、経済活動が流れます。どんなにハイテク化が進んでも、ローテク(侮蔑的な意味ではなく、人間が介在するという意味で使っています。)あればこそのハイテクです。特に、金融機関のように、ハイテクとローテクが混在する業務プロセスをもっている業界にとっては、双方のバランスと移行ステップ(重複コスト発生期間をいかに短くするか)が死活問題となります。マスコミや金融庁(一部の中途採用者だけと思うのですが)が言うような戦略的IT化(eバンキング)は、新規参入者か無責任な金融機関でしか採用できない「集中と選択戦略」です。

現金輸送事業は、3K作業(きつい、汚い、危険)というだけでなく、清く・正しく遂行されることが必要です。頻繁に現金確認にミスがあるということですし、従業員の勤務態度に対する念入りな注意も必要だそうです。様子のおかしい従業員の運転する輸送車を、興信所やセキュリティ会社の車が追尾して監視しなくてはならないこともあるようです。セコムが警備サービスを開始した頃に経験したことと同じです。セコムの場合は、様々な施策によって、従業員の訓練と誇りを推進するとともに、ハイテク・ローテクのベスト・ミックス企業に進化させ、今日の信用と顧客基盤を獲得しました。この業界も3K的位置づけから脱皮して、立派な新事業と発展する可能性は充分にあります。

軍隊では、フロントの兵士や装備ばかりが目に付きますが、兵站といわれる弾薬・武器・衣食料・医療・娯楽の支援がなければ、軍事行動は不可能です。米軍では、ロジスティック部門にも最高幹部に昇進できるルートがあるそうですが、日本の銀行界でロジスティックは日陰の扱いです。結果として、何らの進歩・改善・進化がないままです。トヨタはアサヒセキュリティにトヨタ生産方式を導入して、抜本的な業務改革を行うそうです。トヨタ生産方式という言葉が魔法の杖のように使われ、皆が即座に納得するのは理解できませんが。トヨタ文化によって、徹底的に改善活動を積み上げれば、数年で見違えるようなビジネスになることは可能でしょう。

銀行界にとって、トヨタは余り良い顧客とは言えないかもしれません。むしろ注意すべき競争相手候補という位置づけでしょう。そこに現金周りを抑えられることは、何を意味するのか。いかに対応するのか。また、ネット・バンキングなどを推進する上で、現金扱いをどう位置づけるのか。顧客とのバリュー・チェーンを整理しながら、再考すべきでしょう。

ITベンダーにとっては、この分野は全くの未開地(無知)です。物流業者やグローリー、ローレル等の現金処理機メーカーと共同で、いろいろなビジネス・ソリューションの提案を繰り返して欲しいものです。銀行の対応が遅いようだったら、自分達で事業化してしまえば、長期的に安定した事業基盤を確保できるでしょう。現在の銀行は、何でも外部委託すれば、コスト削減と戦略展開が可能だと思っていますので。