地域金融機関の合併(多摩地域三信金)


平成16年11月1日号の日経が多摩中央・八王子・太平信金の合併を報道していました。立川、八王子、武蔵野市をそれぞれの基盤とする信金で、合併によって合計預金量が2兆円弱で都内3位の大規模信金となります。新名称「多摩信用金庫」で判るように圧倒的に多摩中を核とした新金庫ですので、寄り合いの大規模信金(失礼な表現ですが)とは組織力が異なる新金庫となることでしょう。

現時点で全国に信用金庫は306あります。その中に、預金量(資産規模でなく預金量で計るところに、この業態の古さと特殊性が見られますが)1兆円を超える金庫が18あります。筆者が、全国456の信用金庫を訪問していた20年ほど前は、預金量1千億円が効率的な規模とされていたことを考えると随分と変わったものだと思います。

北海道から沖縄まで、全てではありませんが全国の信金を廻りまして、その金庫名から日本の地理を覚えたようなものです。今は忘れましたが、全ての金庫名を県別に暗誦できることを自慢としたものです。当時勤めていたIBMの営業支援で訪問することもありましたが、出版したり講演したりすることも多かったものですから、IBMユーザー以外の信金の役員会や支店長会に外部講師としてお伺いしたのです。夜は宴席に招かれて、様々な話をしました。ただ、多くは世間話で金融ビジネスのあり方や信金のあり方などに話しが及びますと、興味を示さない役員方が多かったことに不思議を感じたこともありました。この人達には自分で地域経済や金庫を変えようとする主体性はないのか?と疑問に思ったのです。ある県の地銀を訪問した際に、地域経済の減速縮小を悩む発言を多く聞きました。私は「駅の向こうは歓楽街で、県外からの出稼ぎホステスが観光客を相手にする水商売ばかりが盛んで、駅こちらの旧市街は夜8時になれば真っ暗だ。これは、地銀が役割機能を果たしていないことではないのか?」と頭取に直言して顰蹙を買いました。

その直後に業界で尊敬される大規模信金の役員と会いました。先の地銀と全く同じことを言っていました。私は、信金の父と言われた城南信金・小原鉄五郎氏の台詞を引き合いに、信金の根元機能に話題を転換したのですが、その役員には商業銀行化しか頭になかったようです。全く話がかみ合いませんでした。こんな金融機関しかない地域の人を気の毒に思うと同時に、都市銀行や周辺の地銀が、この地域に攻め込めば、簡単に制覇できると思ったものです。

昔語りが目的でなく、地域金融機関と規模・効率優先の商業銀行とは存続意義が異なることを言いたいのです。信用金庫は、合併を通じて1兆円の預金量を持つ中域金融機関になる道を選んだようです。信金中金の宮本理事長も適正規模1兆円というような発言を繰り返しています。しかし、筆者は共存共栄社会を基盤とする地域金融機関に単純な市場原理は合わないと考えています。昨今の金融行政は市場原理主義一辺倒のステレオタイプでありますが、それでは安定存続できる法人の率は20%程度でしょう。グローバル競争では、市場原理が大原則なことは自明ですが、それ以外の分野にも同じ原理を強制して最大多数の最大幸福が実現できるとは到底思えないのです。

とはいえ、地域金融機関が保護された社会主義原理で存続できるとも思えません。(信金業界は社会主義的風潮が強すぎるので、それを修正する必要はありますが。)その要件が資金量1兆円かどうかは判りません。採算可能な1人当たり、1店当たりの資金量から逆算して、1兆円・1千人が業界としての適正規模水準になったのでしょう。

信用金庫業界は資金量105兆円ですから、最終的には100金庫前後に集約する道を歩んでいることになります。別から見ますと、第一地銀や第二地銀の中に、それを下回る規模の銀行があります。つまり、第二地銀はもとより第一地銀も再編が加速されることが容易に想像できます。

その際に、もう一点考えておくべきことがあります。道州制です。対全国GDP比率2%の県が5つ結合して一つの道になるとすれば、GDPの10%即ち現在の水準で50兆円経済圏が成立します。そのNo.1銀行になる第一地銀は、シェア30%で資産規模20兆円超となります。もう金融庁や親密メガバンクの指示待ちで経営ができる規模でも立場でもなくなります。それだけの気構えと態勢を今から準備しておかなくてはなりません。

メガバンク、特に東京三菱には、こうした長期的な環境変化を考えた動きが見られます。つまり、行政や協会のスレテオタイプ、ワンパターンなシナリオではなく、自らが今後の金融界の地図を書き変えるくらいの動きが見られるということです。個別の地域金融機関にとっては、協会や同業態の他金融機関は頼むに足らない状況となるでしょう。まさしくパラダイムシフトが起こりつつあります。それは、中央銀行にとっても同じことです。中央銀行や協会の存立基盤が問われる状況になりつつあります。メガバンクの影響力は、それほど大きくなるということです。

話を戻して、多摩信の場合は、合併におけるガバナンスの心配は感じません。これまでのケースでは、行政の意向に添った単なる規模拡大の合併もありましたが、何の効果もなく、単に混乱を起こしただけということもありました。その際に、必ずシステム統合が混乱理由に挙げられます。信金でも、システム統合ができないことを理由に合併が撤回されることがありました。多摩の場合は、多摩中が昔から代表的なユニバック・ユーザーで、今日でも80名前後のIT・事務管理要員を抱え、そのレベルは地銀同等以上です。八王子や太平は、元々が信金共同オンラインですから、ITケイパビリティはないと言って構わないでしょう。(情報系の要員を持っているとの反論があるかもしれませんが。)普通に考えれば、多摩中のシステムに統合されます。

仲間の減る信金共同では残った金庫が減少する加入料金の負担をすることになります。信金に限りませんが、これがIT共同の宿命です。この簡単な理屈は昔から自明だったのですが、信金も地銀も「破綻する、或いは、吸収される仲間がゼロ」という前提で共同化を考えてきました。そのツケは、2006年の重点強化プログラム期間満了までに払うことになります。そのIT共同化を強力に進めたのが、NTTデータを筆頭としたITベンダーのみでなく、旧大蔵省や金融庁であったということも皮肉です。他人の言いなりになった旧経営者のツケを現経営者がいかに払うかが課題となります。

現役の銀行経営者を助ける方策を打ち出すITベンダーが、どこかにいないものでしょうか?