郵政民営化システム対応(開発検討会議)


16年10月18日付け金融経済新聞の記事によれば、「郵政民営化情報システム検討会議」が第一回会議を12日に開き、検討課題をとりまとめたそうです。

会議のメンバーは、加藤座長以下、トヨタCIOの天野氏、東大教授の宮田氏、KPMG−BAの満塩氏、公認会計士協会IT委員長の中山氏、慶応教授の国領氏の5名、それとオブザーバーとして郵政CIOの山下氏(日銀出身でアクセンチュアから転職)が加わっています。天野氏以外はIT実務を知らないのではと心配しましたが、宮田教授は船舶工学が専門ですが、プロジェクト管理の大家ということで安心しました。このメンバーですと、ボトムアップよりは、むしろビジネス(ポリティカル)ニーズを前提に、目的指向の検討をすることでしょう。

郵政は、当会議の結論が出るまで殆どのプロジェクトを止めたようです。つまり、12月までは何もできません。ますます時間がなくなるので、当会議は検討に時間をかけられません。実行可能性も重要ですから、極めて難しい作業になるでしょう。いい加減なコンサルのように言い放しという訳にもいきませんし、大変な責任です。

検討課題は、

@    民営化に必要なシステム対応

A    分社化に必要なシステム対応

B    開発着手に必要な業務要件のレベル

C    既存システムの活用範囲

D    調達、設計、テストなどに要する期間

トップアダウン式の検討方法を取っています。郵政が5200万ステップのソフト変更が必要とする根拠は、ボトムアップで積み上げたのでしょう。それも担当ベンダーの前提条件付き見積もりですから、どうしても安全と売上げに配慮した見積りとなります。結果として2007年分社は不可能な理由を並べることになりました。民営分社化論者からすれば、NTTデータ、IBM、アクセンチュア各社は、民営分社化に反対していると見えるでしょう。それも自社の収入を維持確保するために。郵政としては、責任回避できるのでしょうが。

30年程前、筆者がまだIBMへ入社して間もない頃です。全社的営業会議のゲスト講演で、第一次南極越冬隊長だった西堀栄三郎氏の話を聞いたことがあります。計画段階では、ほぼ全ての関係者が、南極での越冬が不可能な理由を並べ上げたそうです。西堀さんは、それらを脇に置いて(無視とは違います。)、実行するための方策のみを追求したそうです。それが、越冬隊成功の秘訣だということでした。当時は「なるほど」という程度の感じだったのですが、その後、数多くのプロジェクトを見聞きする毎に、西堀さんの話を思い出します。やらない理由を見つける名人は、どんな組織にも多勢います。筆者はコンサルを実施する時には、最初に出来ない理由を全て列挙するようにクライアントに頼みます。後出しはお断りです。中には実施してから致命的阻害要因を言い出すような始末に負えない人もいますが。事前に抽出した阻害要因を排除するとともに、促進要因を強化していきます。経営トップに早い段階で決断してもらって、変数を減らすのが大切です。日本人は、漫然と変数を増やすのが好きな人種のようです。

今回のプロジェクトにおいては、現行物理モデルと新論理モデルをフィット・ギャップすることになります。会議メンバーは現行物理を知りませんし、勉強している時間もありません。新論理を作成して、それと現行物理を比較するのでしょう。その際には切り貼りだけでなく、コピーやネグレクトが有効でしょう。極端な案ですが、4社に分けるなら、現行物理を3つコピーして、使わない機能はネグレクトするのも方法です。今回のシステム対応の目的は、分社化しても業務を継続できるようにすることです。つまり、新会社の、あるべき理想的システムではありません。理想的な新物理は、分社化の後で、自分の稼ぎを使って、じっくりと開発することです。昨年末に動かしたばかりの年間2500億円のシステムに、巨額な資金を追加して贈呈するほど、国庫は裕福ではないでしょう。

もともとが巨大なドンブリですから、それを再構築して、分社・民営化することが、非効率なのだと思います。仮に5200万ステップの改造だとして、新規開発より手間がかかることを考えれば、人月500ステップも出来たら上々でしょう。とすれば10万人月以上のプロジェクトです。3年かけるとして、平均で3千人、ピーク時で5千人以上が必要なプロジェクトとなります。それも、現行システムを熟知している要員を相当数確保する必要があります。もう、現役で残っている人は多くはないかもしれません。要は、現行システムを作り変えること自体が無駄だということでしょう。

現行システムを運営する別会社を設立して、4社がアウトソーシングしても構わないでしょう。各社の費用は、適当な基準で配賦すれば良いのです。会計処理や科目変更など、民間と同等な処理ができないというのであれば、旧富士銀行や三和銀行のシステムを買った方が、はるかに安全で低コストになるでしょう。少なくとも言えることは、現在のシステムを更に掻き回して、新会社に持ち込んだら、それこそ経営の致命的重荷になるということです。