郵政民営化とシステム分割


9月10日に郵政民営化基本方針が閣議決定されました。生田総裁や麻生総務相は、システム分割が間に合わないので2007年分社は不可能と主張してきました。それに対して首相は、外部のシステム専門家による検証を前提に2007年で押し切りました。

郵便、貯金、簡保の業務系システムはもともとが、別のシステムなので生田さんは何のことを言っているのか(または、誰かが勘違いさせているのか?)と疑問に思ったり、「ひょっとして、いつの間にか3業務を統合したのかな?」と思って調べてみました。ホストは別立て、ネットワークは共有、端末は別立て(一部管理用は共有)でした。それはそうです。貯金・簡保だけで3千万ステップはあるでしょうし、年間ITコストも3千億円近いのですから、それをわざわざ統合する意味はありえません。

日経コンピュータ9月20日号に、システム分割が大変な理由(公社側の)が報道されていました。公社は現在、7千万ステップのソフトを保有しているそうです。内訳は、貯金3750万、簡保1850万、郵便800万などだということです。民営化に必要な変更対象が1千万ステップ以上、分社化に4千2百万ステップ以上、合わせて5千2百万ステップ以上の変更が必要なのだそうです。ですから、3年では時間的に極めて厳しいということです。そもそも変更作業の前提となる業務ルールが全くの白紙ですから、3年をまるまるソフト変更に使えるわけでもありません。その業務ルールも簡単には決まらないでしょう。また、ソフトの70%以上を変更するくらいなら、新規に開発した方が数段合理的です。パッケージ導入の際に、30%以上のカストマイズが必要なら、新規開発の方が早くて安いというのは常識です。

そもそも、貯金と為替しかない(少し乱暴な言い方ですが)貯金システムに3750万ステップもあるというのは何しているのかという疑問も出ます。最近、ある業界紙に郵政の事務ミス(過失・意図的合わせて)件数が報道されていました。膨大な件数で、一人当たりに換算しますと、民間の100倍になります。とても信じがたい数字ですので、ここでの引用は避けますが。何故なのかと思っていたら、なんと日締めをしていないのです。それでは、違算の早期発見はできませんから、防止も難しいことが理解できます。また、決算データの作成に3ヶ月もかかるのも理解できました。正直なところ「オイオイ誰が設計したの?」という感じです。加えてPCベースの端末機が300万円という話を聞いたこともあります。素人でも絶句します。年間2500億円のITコストですから、8年使用としてライフで2兆円です。いままで、これが税金で賄われてきました。ベンダーに20%を贈与する見かえりに、半値で開発運用しても8千億円の節約となります。こんなシステムを大金かけて変更することは、余りに馬鹿げています。「税金を使わずに、民営化してから自分の稼ぎでやって」と言いたい気持ちです。

 

では、そもそもなんの為に民営化するのか?国民は郵貯や簡保に満足しており、民間よりも高く評価しているではないか?という疑問が出ます。戦争資金の調達機関として設立され、戦後は帰還兵の就職先となり、高度成長期には財投資金調達機関としての役割を果たしてきました。これらが、時代とともに役割を終えたことは確かです。ただ、これから民営化するということは、230兆円の貯金と8万人以上の従業員と180兆円の保険契約額と5万人の従業員をもった超巨大組織が、金融業務(実質的には保険、郵便、不動産、運送、通販、観光、福祉などの総合サービス)市場に新規参入することになります。現在400兆の銀行融資は、政府系100兆の融資に阻害されて、世界でも異例に低い利ざやです。直接金融化、市場型間接金融化によって、これからの10年で銀行融資額は30%くらい減少するとの予想もあります。つまり、金融は構造不況業種なのです。そこに、非効率だが超大規模な新規参入が行われれば、健全な競争というよりは、市場破壊の可能性が高いことは容易に想像できます。現在の金融市場はとても百万以上の人間が生活の糧を得られる畑ではありません。

郵貯がバッティングするであろう地域金融機関には、自主的な構造改革の動きが希薄です。郵貯も移行期にいたずらな業務多様化を行うのはアンフェアです。民間金融機関は他業禁止で業務多角化による単位あたり固定費削減ができないのですから。そのアンフェアに自社の小利を求める民間企業もあるでしょうが、表面的サービスだけで選択する消費者が良い顧客であり続けることは考えられません。コンビニの宅配受付騒動の結果で判断できるでしょう。民間は、政府が決めることだと傍観していては、生き残りの機会を失います。抜本的に業務分野を見直して、新しいビジネスを設計しなおして2007年までに軌道に乗せる必要があります。その予選に勝ち残らなければ、決勝リーグには進めません。監督当局も業界も助けてはくれません。これまで築いてきた顧客基盤、チャネル、融資ノウハウ、資産運用力、ITケイパビリティなどの財産をどう活かすかです。

郵政公社は、内閣や議会の動きに逐一システム対応を考えていると大変なことになります。システム化の最大の敵である変数(業務要件)が余りに多すぎ、大きすぎます。そして変わるでしょう。むしろ自分達であるべきビジネスモデルとシステム・アーキテクチャを想定し、新システム構築を開始した方が安くて早いでしょう。現行システムは当面凍結してNTTデータにアウトソース(システムをベンダーに買い戻させるメガバンクの事例もあります。)するか持ち株会社所有(現在、誰の所有物かわかりませんが)としてグループ各社から業務受託しながら、民営化や分社化対応は最小限にすべきです。しばらくは、システムによる自動処理よりも人間による運用でカバーする方が現実的でしょう。それに立法処置が必要ならば堂々と要求すべきです。ここまで来たのですから、民営化や分社化は反対で、ITもいわれたことだけを実施するという方法ですと、誰の利益にもなりません。ベンダーはその方が有り難いのでしょうが。今は、規模や業務範囲、国の信用などで郵貯脅威論が民間に強いですが、強みはある時突然に弱みに変わります。リストラや経営戦略の変更を迅速にできない致命的弱みあるのですから、余計な投資や時間の浪費は自殺行為となります。