日経 13/12/15

中小企業融資の審査情報

日経新聞(131215日号)の「病める金融―情報がとれない」シリーズ第二回の記事です。

銀行の都合で、必要の無い時に融資を受けさせられ、環境が変わると金利を上げるか、貸金回収を迫られる。決算書情報だけで与信判断を行う大手銀行に対して中小企業が不信を高めているということです。官主導で信用情報共有データベース化の動きもあるが、蓄積する情報は過去の財務データやデフオルト情報であり、生きたものではない。それに対して、顧客との相対の付き合いで生きた情報を入手・活用して高い取引密度と経営健全性を誇る葛飾区の青和信用組合を紹介しています。また、最初は経営者個人へのカードローン取引で資金情報を入手する地域金融機関の動きや、複写機の利用状況データを利用して無担保ローンに参入したリコーリース社が紹介されています。

日本の企業融資では、取引先の歴史、売上と資産の大きさが重視されます。審査から実行までのスピードが遅いので運転資金用には使い憎く、設備投資用には銀行側が事業性を判断する能力に欠ける難点があります。担保があれば別ですが、担保物権を持つような企業はどんどん減っていきます。サービス産業化の時代にあっては、余計な資産を持つこと自体が競争力を落とすからです。重厚長大産業を前提とした銀行審査基準は、時代に取り残されているのです。都市銀行でも、以前はIT戦略チームが、ITベンチャーと肌身の付き合いをしながら、自行のIT化検討や新規融資窓口の機能を担っていた時期がありました。しかし、多くの担当者は銀行を辞めて、ITベンチャー側に移ってしまい、ノウハウは残っていません。新しいソフト製品の価値を理解してリスク評価できる人材がいなければ、融資など出来る筈もありません。経営者の人格と情熱だけでは事業の成功は保証されないのですから。昔の銀行は、さまざまな企業を見ることによって、経営指導に結びつけていたのでしょうが、今日のように専門化・高度化した産業界で指導的役割は、もはや求められていないのでしょう。経営指導をしたいのであれば、業種を特化して専門性を高めざるをえないでしょう。今後、設備資金はますます証券化されます。間接金融は、今まで以上に運転資金にシフトすることになるでしょう。

共同によるリスクDBの開発が行われていますが、その利用価値には大きな疑問があります。ましてや官主導だとすれば、開発の後の維持コストに恐怖感を覚えます。昔から、役所主導のIT関連プロジェクトが数多くありましたが、成功事例を見たことがありません。対価を得たのは、役人と開発を請け負ったITベンダーだけで、使えないシステムの膨大な保守費を会員が負担し続ける事例が多いからです。

数年前、青和信組の井出理事長を訪問したことがあります。お世辞にも立派とは言えない建物と、とても質素な理事長応接室でお話を伺いました。バブル崩壊直後でしたが、質実で組合員至上の健全経営を続けてこられたので、周辺の金融機関の慌てぶりとは全く異なっていました。まさに協同組合金融機関の正しい姿を見た思いがしたものです。今日、健全経営を続けている金融機関に共通することは、質素、堅実、顧客奉仕を根本として、間接金融の原理原則に則った経営を続けていることです。その根本を失ってしまった場合は、表面的な財務手当では、元に戻れないでしょう。

同じ頃、大手の商工ローン会社のBPRをお手伝いしたことがあります。こちらは、三面記事に載るような悪徳融資はせず、まさにドブ板営業をしていました。融資先を頻繁に訪れては、社内の様子を見、社員や家族の様子を見るのです。運転資金の要望があると、場合によってはその場で鞄から現金を引き出し、融資実行をします。その時に経営者の顔を見れば、返す意思が判るそうです。審査・実行・回収のプロセスは極めてシンプルで、合理化余地なぞありません。下手にIT化したら、逆効果です。この会社の審査には取引先の決算書類は必要ありません。せいぜいキャッシュ・フロー管理表の程度です。しかしキャシュフローをつけている零細企業は稀です。商工ローン社員が教えてあげるのです。銀行に比べれば薄給ですし、金利ははるかに高いのです。しかし、顧客も社員も満足していました。

難しいことを易しく、易しいことを深く、深いことを面白く。というのが、サービス・ビジネスのポイントですが、多くの金融機関は逆をやってきたようです。ITもそれを増幅して、銀行業務をわかり憎くしてしまったのかもしれません。