日経 13/12/14

銀行CRM

日経新聞(131214日号)記事です。スルガ銀行のCRMシステムを成功事例として紹介しながら、まだ名寄せも出来ていない金融機関が7割前後あるとしている。勘定系システムから分断されているので、顧客情報の鮮度を保てず、ニーズ把握も思うように実現していないとの内容です。

我が国の銀行が顧客情報を蓄えるようになったのは、昭和50年代に始まった第二次オンラインからですから、かれこれ25年以上の歳月を費やしています。顧客情報の使い易さの観点からCMFが良いか?それともシステム効率の観点からCIFが良いかと議論したことを覚えています。

第三次オンラインの基本構想を研究していた1980年代初頭のことです。大手銀行といえども単独でシステム全てを開発する資金・要員・時間がありませんでした。ミドルソフトを商品化したり、アプリケーションの共同開発などが不可欠となっていました。勘定系の預金取引負荷を秒あたり200件前後と想定して、CPUとミドルソフトの処理効率要件を定め、開発部門に要望を出したものです。最大の課題が情報系の扱いでした。処理件数は少ないけれど、フアイル・アクセスが多く非定型処理である情報系業務を勘定系と一緒にすると、CPUは少なくとも5倍以上の規模・速度が必要となってしまいます。とても価格面で折り合わないのです。結果として、勘定系・情報系は分離されたのです。ハードウエアの価格性能比が今ほど上がるとは思っておりませんでしたし、三次オンの寿命は1995年頃までと考えていたのです。

銀行の顧客情報管理の仕組みには四つの大きな問題を含んでいました。
第一は、個人顧客を個としては捉えていなかったことです。顧客は預金者であり(実は仕入れ先なのですが)、それは大手企業、中堅企業、中小企業、富裕個人、一般個人の五種類だけです。あくまでも社内管理資料に使う切り口でしか顧客を見てこなかったのです。
第二は、口座管理に関するデータだけしか入手しないで、鮮度を維持する仕組みもないことです。それでもマル優のある時代は、公式に顧客の基本情報を入手する仕組みがありましたが、取引ネット化とATM化が進むと、個客が見えなくなり、転居しても住所変更届けをしない顧客が増えました。正確な現住所の比率はあきれるほど低いのが実情です。
第三は、コード化できる情報しか集めないことです。可変長のフアイル管理は技術的に可能でしたが、システム処理効率と事務効率の観点から殆どの顧客属性をコード化しました。その結果、DBコンテンツは硬直化してしまいました。銀行ローンを借りる時に提出するコード化情報と、消費者金融で借りるときの顧客動作・表情などの情報のどちらが有益かは貸倒れ率を比較すれば歴然としています。
第四は、履歴情報のないことです。コストと処理効率を考えて全ての情報を上書きしてしまうのです。顧客の属性もニーズも日々変化します。そこにストーリーがあり、現在に至る原因や将来のニーズが掴めるのですが、消してしまいます。
第五は、顧客情報の最終利用者と受益者の視点がないことです。あくまでもマスで捉えており、伝統的な市場分析やキャンペーン・アプローチ先抽出を目的としてきました。行員には余計な分析をして時間を無駄にせず、決められた行為を一日xx回して欲しいという考えです。リテラシーが上がる筈がありません。顧客情報の外部流出防止の為に、自宅への持ち帰りは勿論、モバイルへの搭載もしていません。何処で、何時、入力して照会しろというのか、というのが一線の人々の率直なクレームです。ATMを使っている時に、行員が飛んできて「お誕生日おめでとうございます。投信を買ってください。」なんて言われたら、私なら解約してしまいます。受益者であるべき、顧客にとっては何のメリットもありませんから、情報を提供するインセンテイブは働きません。

根本に二つの大変化があります。
個客の集合体である市場は、多様化・複雑化しつつ短時間で変化しています。その時代にマス・マーケテイングの思想のみで顧客情報を管理することが既に破綻しているのです。表面だけワンツーワンなどと標榜しても、最終利用者も受益者も反応してくれる筈はありません。組織全体の目標・プロセス・評価基準などの前提をクリアしなくてはなりません。無理であれば、旧来組織にあった戦略に集中するしかないでしょう。
技術も変わってしまいました。ネットワークの速度・価格が劇的に変わり、IP化で相互接続性の制約が消えてしまいました。XML等の出現により、プロセスとデータを分断(昔はデータのプログラムからの独立と表現しました)せずにプログラムを書ける時代となりました。S/360以来のアーキテクチャー変化と言えます。SOAP、WSDLUDDIなどの標準化によりピアツーピアのアプリケーション連動(総称した体系をWebサービスということが多い)が実現間近です。IT戦略は根本から見直す必要があります。ビジネスにも大きな影響を与えます。

このような劇的な環境変化に気づいている銀行マンも多くいます。しかし、必要なのは組織的変革です。経営陣が理解しない場合、抵抗勢力が大きすぎる場合、見ぬふりをするか、あきらめるか、暴れてみるか、評論家を決め込むか。銀行マン個々人の人生観が問われているような気がします。