個人向け融資(トヨタのリバースモーゲージ)



日経新聞4月15日号に、トヨタがリバースモーゲージを開始するという記事がありました。小さな記事ですが。

60歳以上のトヨタホ−ム購入者に対して、トヨタファイナンスが土地・建物を担保に、3ケ月毎に融資するものです。融資金は債務者の死亡時に担保を売却して完済します。年金のように定期的にキャッシュを提供する考え方です。担保対象を自社物件に限定することで担保評価を容易にするとともに、定期的に不動産価格変動を融資条件に反映させて担保割れリスクを抑制するそうです。

米国では、住宅抵当証券市場が巨大なこともあり、リバースモーゲージが普及しています。日本では、証券化技術も市場も未発達なために、モーゲージ市場が小さく、リバースモーゲージはほとんど実績がありません。多くは武蔵野市のような地公体が直接あるいは銀行を紹介する形で扱っています。神戸(震災対策)を含めておよそ20の公共機関が提供しているそうです。

15年ほど前だったでしょうか。武蔵野市が住民サービスとして開始したのを聞いて、当事の武蔵野市長(お名前は失念しましたが、さまざまなアイデアで住民サービスを提供していました。)を凄い人だと思ったと同時に、何故民間銀行や公庫が提供しないのかと疑問に思ったものです。相続税対策商品にもなりますし。不動産という資産がありながら、キャッシュフローが不足する高齢者にとっては、持ち家の価値を有効利用したいのは当然のことです。広い土地があれば、土地信託等がありますが、そのような人の数は限定されます。また、年金収入のみになった高齢者にとっては、金融資産が徐々にでも減少していくことは、余命が減るように思えて大変な不安感があるようです。年金以外に安定したキャッシュインがあれば、精神的にも随分と楽になるでしょう。

リバースモーゲージは、逆抵当融資とか住宅担保年金と呼称されますが、やはり契約条件が複雑になります。相続人全員の同意が必要だとか、マンションは対象にならない、或いは、市場価格の50%掛け目だとか、地域や物件、市場動向が複雑に絡みます。融資上限を3千万とか5千万にする地公体が多いようですが、担保割れになったら追加融資を行わないことが多いようです。融資先がキャッシュインの少ない高齢者ですから、債権側としては難しい判断を強いられますし、社会的批判を浴びるような事態を避けたいのも理解できます。要は、金融商品としての整備と認知が不足しているということでしょう。

わが国の住宅ローン残高は、公民合わせて190兆円あります。大変な規模ですが、それが資産としては硬直化しています。流動化することで、高齢化時代の金融商品として普及させられれば、国民経済全体にも良い影響を与えると思うのですが。民間でリバースモーゲージを扱っているのは、旭化成ホームズなどの住宅メーカーの一部だけで、融資実績も極めて少ないようです。この市場にトヨタが入ってくるのは何を目指しているのでしょうか。単なる住宅販売促進なのでしょうか。

自動車の内装技術や鉄鋼等の素材メーカーとの取引関係を活用して住宅ビジネスに参入したのでしょうが、もう一つ業績が伸び悩んでいるようです。また、リバースモーゲージを提供するからといって、トヨタホームを選ぶ客がいるとも思えません。顧客の中心はグループ従業員や地域住民でしょうし。むしろ、トヨタファイナンスの実験的商品という意味合いであれば理解できます。

トヨタは欧州・米国に銀行を設立しています。また、多くの銀行出身者を世界各国で採用しています。しかし、日本では銀行設立の動きはありません。ノンバンク・証券・損保に参入しているだけです。トヨタにとって資金調達は容易ですし、決済ビジネスに魅力はありません。本業を補完し、滲み出し戦略の意味のある分野で資金運用とリスク管理の学習とインフラ構築を優先しているように見えます。とはいえ、今回のリバースモーゲージはさしたる波及効果はないでしょう。3年、5年後にどうなっているかが楽しみです。

東京都はBPNパリバ信託銀行の買収を完了しました。20億円強と言われる買収費が自力設立に比べて安いかどうかは判りません。また、金融庁は振興銀行に設立許可を与えました。どちらも、本当に本気なの?という感じであり、金融庁もキチンと審査したの?とも思います。拒絶する明確な理由がない限りは許可せざるをえないのでしょうが。次のステージは、日銀が当座預金の開設を新銀行に認めるかということになります。その次は銀行協会への加入というよりは、全銀為替への加入問題となるでしょう。あっという間に3年が過ぎてしまいます。

筆者はビジネスモデルという言葉に、危険なイメージを持っています。モデルには概念的なものと実装的なものがありますが、単なる謳い文句や単発的アイデアだけでビジネスモデルということが多いからです。銀行機能は業界として精緻かつ複雑な仕組み・制度・風土で成り立っています。因習的な側面は捨てる必要があるとして、健全な仕組みに隘路が出来ることは避けなくてはなりません。システムという鎖の堅確性は、最も弱い環で決まることは良く知られるところです。