日経 13/11/26

地域金融機関のIT戦略

日経新聞(平成131126日号)の特集です。今年、合併・事業譲渡・破綻した全国の地域金融機関を紹介し、栃木県と富山県の状況を報告しています。来春のペイオフ解禁を控えて地域金融機関の危機感が高まり、業務提携やシステム提携などの施策が進められているとのことです。

現在、苦境に陥っている地域金融機関を見ると、その多くが地元以外に進出し、バブル崩壊の影響を受けた所が多いと言えます。地域金融経営の基本である狭域高密度のチャネル展開と地域シェアNo.1戦略を継続してきた所の経営は比較的安定しています。地域特化ですから貸出先業種の偏ることがないのもリスクを下げた原因となっています。

しかしながら、資金需要が減退し、公共体ビジネスのメリットも薄れた現在、地域経済低迷が地元金融機関の収益基盤を揺るがしつつあることは事実です。預貸利鞘は経費率と預貸率と貸倒れコストを超える必要があります。現状では預貸率も貸倒れも一挙に改善できる方法がありません。経費率削減に努めることに合理性はありますが、合成の誤謬があることに注意が必要です。もともとの経費率が1.52.0%ですから、その20%を削減してもたいした効果にはなりません。副作用として資産規模も縮小してしまえば、経費率は改善しません。資産規模を大きくするために合併・事業譲渡しても、米銀のようにドラステイックなリストラは出来ません。顧客も従業員も皆、地元の顔なじみなのですから。

残される方法はサバイバル・ゲームとなります。他行のビジネスを奪うことです。奪われた方は、市場から退出しますので、地域全体の経費率は下がることになります。顧客争奪戦の武器としてCRMが注目されています。CRMと銘打った投資案件は、議論も何もなく役員会を通るようです。しかし、CRM関連のITツールを導入すれば顧客の囲い込みが実現するほど顧客は無知でも無欲でもないでしょう。ITの共同化もブームです。当面は統合コスト増となりますが、中期的には固定費削減に有効でしょう。しかし、長期的にはITパワーを落とす可能性があります。共同化、外注化すべきものと、自前で確保・充実すべきものとの見分けが大切です。コストを削るだけでは、根本の問題解決にはなりません。

筆者は、地域金融機関の根源機能は預貸ビジネスだと考えています。それも地域経済振興に貢献する与信が前提です。担保主義の融資ではありません。経営者、従業員、顧客、取引先を熟知し、総合的に判断できるのは、地域密着した金融機関にしか出来ないからです。決済は預貸ビジネスに付随する機能と捉えられます。我が国ではコモデイテイ化してしまい、収益をもたらすビジネスではないからです。証券ビジネスは、地域金融機関が自ら参入するには、産業文化、企業文化、従業員のスキルの面で無理があります。個人向けの無担保ローンや住宅ローン、中小企業向け融資が強化されていますが、市場を拡大・活性化するにはインパクトが小さいと思われます。従業員一人当りの業務純益や預かり資産残高の改善程度を考えれば明白でしょう。新しい道を追加する必要があります。

それは地域の顧客に対するオープン・フイナンシャル・プロバイダー(略称OFP)ではないでしょうか?顧客の資金運用はグローバル化します。銀行・証券・保険その他の投資商品は融合化します。一方で資金調達は直接金融の比重が高まるでしょう。しかし、間接金融が無くなるわけではありません。つまり、顧客に密着する金融機関は、あらゆる金融商品を揃える必要があります。しかし全てを自力で用意することは不可能です。ましてや、一流の商品を揃えるのは最大手でも出来ないことです。立場を変えて、地域顧客のために世界水準の商品を斡旋することに特化することがOFPの考え方です。顧客情報を、独占的に把握しつつ、顧客サイドに立ってベストな商品を斡旋し、紹介手数料等を得るのです。取扱い商品には、自行商品だとか、友好金融グループだとかは関係ありません。あくまでも顧客の代理人であり、相談相手です。東京のようにあらゆる金融サービス業者が集積している地域では、あまり意味がないでしょうが、一歩離れた地方では企業や富裕個人にとって価値あるサービスとなるでしょう。一社専属のFPでは顧客の信頼を得るのは至難です。独立系では、情報収集力や信用に限界があります。地域から逃げ出せない地域金融機関ならではの強みを発揮できるでしょう。投信の窓販で実証されたように、販売代理の手数料は魅力的です。これからは、損保、生保と取り扱い可能な商品が増えます。場合によっては、持ち株会社の下に販売会社を設立するのも良いでしょう。遠からず本体を養う立場になる可能性が大でしょう。

OFPのビジネスモデルに必要なIT戦略は何でしょう?顧客情報であり、商品情報であり、相談支援システムなどの、いわゆる情報系の充実が第一です。また、取引を斡旋するということは、顧客の面前で契約内容を入力するフロント処理のオンラインが必要です。それも様々な国内外の金融機関と接続して処理することになります。Webサービスという新しいアーキテクチャが有効でしょう。特別に先進的な技術を使うのではないのですが、インターネット上で複数の遠隔アプリケーションを連動処理するための体系と標準が実用化の段階に入ってきました。我が国産業界でインターネットの普及が最も遅れているのが銀行業界ですが、若手や外部の安くて仕事の速い人材を確保すれば、これまでの遅れを取り返すことが可能になるでしょう。

Webサービスで成功する秘訣は、業務プロセスのアンバウンドルとリバウンドルであり、提携する他金融機関に対するガバナビリテイの確保です。それは地域内の顧客シェアそのものでしょう。ビッグ4といえども、東京・大阪など六つの都府県で十数%のシェアしかありません。他県では顧客基盤は皆無に近い状態です。県内シェア40%前後の地銀は立場が違いますので、ビジネスモデルも全く別になります。大手の戦略の後追いをすることほど、体力と時間を消耗する経営はありません。地域金融機関の原点に回帰しつつ、新しい市場の開発を短期間に成し遂げることが、苦境から脱出する唯一の途でしょう。その時にWebサービスは強力なツールになるでしょう。