日経 13/11/7

法人向けインターネット・バンキング

日経新聞(平成13年11月7日号)によれば、地銀三行が法人向けインターネット・サービスを開始するという。千葉銀行がWebベースのバンキング・サービスを今月26日から開始予定で、北日本銀行、みちのく銀行が経営支援サービスを開始したという。

法人向けネットバンキングは、都銀では富士銀行が、地銀では第四銀行が先行した。今年の10月現在で、三和、あさひ、東京都民、東北、庄内銀行などが実施している。近く三井住友銀行もサービスインする予定である。専用端末もソフトも不要で、残高照会・明細照会・振込振替などの取引処理が可能なネットバンキングは、取引件数の少ない小企業には効果的な取引手段である。当社のインターネット・バンキング満足度調査でも、毎回、提供希望の声が多く出ている。

一方、中小企業を対象に、銀行がBtoB戦略を考える際、どの銀行でも出てくる案が経営支援である。商材斡旋、中小企業診断士や税理士による経営相談、公的助成金の手続き紹介、ECのインフラ提供などである。あわよくば給与計算や経理処理のプログラムを提供して、財務データを吸い上げ、それを融資判断の材料にしようなどと考える。販売推進のために、会計事務所や公共団体と提携もする。しかし、このような情報を銀行のネット経由で頻繁に見るほど、時間に余裕のある企業は余り多くはないだろう。北日本とみちのくの両行は、今回のサービスをPR活動の一環と位置付け、会費無料の会員制にするという。もっともな対応である。しかし、誰が、何故、会員になるのか疑問ではある。恐らく営業店担当者が「無料ですから、つきあいだと思って入会だけして下さい。」と頼み込むのだろう。多くの会員は、睡眠会員となるのではないか。やがて、提供側が使用頻度の低さと経費節約のために廃止したいと考えた時、会員へのイメージダウンと営業店担当者の苦笑いが待っている。というのが、これまでの経験からの予想である。このような事態を避けるには、毎日、見てもらえるサービスが不可欠である。

そのためには、取引情報が手っ取り早い。入出金や残高の明細は頻繁に見る。次にアカウント・アグリゲーションと振込・振替が欲しくなる。その次はエスクローや売掛債権証券化などである。経営支援情報は、取引画面にリンクを貼っておけば良いだろう。このように取引と経営支援情報を合わせて提供しているのが、あさひ銀行である。但しアグリゲーションは出来ない。他行で法人向けネットバンキングを提供しているところが殆どないからである。仮に各行が提供するようになれば、アグリゲーションは、壮烈な販売競争の対象になるだろう。勝ち抜くには、単純取引以外のサービスで差別化しなくてはならない。それが何なのかは、まだ誰も発見していないようである。

現時点で、何故、法人向けネットバンキングは提供されないのだろうか?
セキュリテイ対策が大変なのは事実である。権限の無い従業員の誰かが、自分の口座に資金を引き出すかもしれない。口座情報を盗み見するかもしれない。その事実がないにも関わらず、経営者の勘違いで銀行にクレームをつけてくるかもしれない。それよりも、ハッカーやウイルスにやられたら、システム障害で顧客の振込が実行できなかったら。万一を考え出したら、営業店が簡単に同意することはないだろう。本人確認と取引意思確認は、相手が法人であるだけに非常に難しい。複数のパスワードと約款で対応できるのか。約款の法的正当性をどう担保するのか。いずれは、認証機関の必要性が叫ばれるだろう。システムのパフオーマンスも課題である。数人の零細企業であれば、取引件数が少ないので応答時間などの問題はない。それが、数百人単位となれば、給振・総振など伝送データ量も多くなり、銀行側が取引量をコントロールできない分、余計にリダンダンシーを確保しなくてはならない。回線の問題だけなら、BB化の進展で何とかなる。Webサーバー、アプリ・サーバーだけでなく基幹系への影響も大きい。ネットでデータを送るのであれば、顧客企業は当日か翌朝までの取引完了を要求するだろう。今のデータ持込期限は良い所で三日前である。バッチ・スケジュールも大幅に変更しなくてはならない。
現行FBとの並存コストも負担になるだろう。法人向けネットバンキングの月間手数料は1050円が今の相場である。FBは3150円以上である。中には万円単位の場合もある。ネットバンキングを開始しても、顧客がいる限りFBも残さざるをえない。二重管理が必要となる。収入が減ってコストが上がる。それでいて顧客数が増える訳ではない。とすれば消極的になる理由も分からなくはない。
ただ、何時までそうしていられるのか?前述のように単純なサービスであれば、アグリゲーションの段階で、壮烈というか悲惨な価格競争に巻き込まれるだろう。避けるためには試行錯誤しながらも、他行に先んじた差別化サービスが必要である。そのための経験と実験は何時行うのか?当面の投資回収は誰も保証できない。つまり、誰も決定しない。新規参入する側にとって、法人向けアグリゲーションとCMSを代行するアウトソーシングは、結構有望なビジネスだろう。商社やネット関連IT業者の動きが楽しみである。金融関連ビジネスは、機能がアンバウンドルされながら、非金融業者によって進化していくのか。