日経 13/11/7

システム開発の外注費

日経新聞(平成13117日号)の記事。富士通が情報サービス部門の連結営業利益率の低下(3月期で6.2%が9月期に5.0%)に対応するため、下請けソフト会社への外注単価を一律10%下げるという。見返りに雛型ソフトを提供することで、下請けの生産性向上を支援する。NECや日立なども海外発注や下請け技術者の能力評価の強化、生産性向上ツールの提供を通じて原価低減を進めるとのことである。

これらの計画には、そもそもの矛盾がある。
第一に大手(通常、顧客企業からプライムで受注する元請)が、中小ソフト会社と同レベルの営業利益率ということは、下請けの仕事に何の付加価値も加えていないことを意味している。筆者の知る中小ソフト会社の多くは、人月コストに5%か5万円を加算して納入しているのである。その単価は、一次下請けで150万円前後、二次で100〜130万円、三次で80〜100万円である。自社より安い外注費で平均単価を薄めながら、元請は顧客から実質150万以上の代金を得ている。営業利益率5%ということは、経常や税引き前利益ではどうなるのか。米国企業なら、ビジネスしないで国債に投資した方が良いと考える。どこで、赤字を出しているのか?公共機関に対する非常識な値引きが原因なのか?大きなプロジェクトで失敗したのか?いずれにせよコスト管理もプロジェクト管理も杜撰であり、生産性も下請け以上ではないことを意味する。低利益率の原因は、下請けへの外注費が高いことではない。
第二に、雛型ソフトや開発生産性向上ツールを提供するとしているが、元請はそれを活用していたのか?効果があるなら、何故、下請けと同等水準の経営効率なのか?これまでの多くの生産性向上ツールは、それに必要な資源の分だけ経営効率を劣化させてきたのが実態である。
第三は、工数計算と人月単価という単純肉体労働的コストモデルから脱却する施策がないというより、一段と助長させることである。日本のソフト開発産業は、少数の大手が殆ど全てのソフト会社を下請け化し、供給量を抑制していると考えておかしくない。顧客企業は、独立系を利用するリスクから逃げながら、元請の提示単価と工数で発注額を決めている。誰もそれを客観的評価できない。したとしても代替策はない。バリュープライシングを行っているソフト会社は極めて少ない。それも長くは続かない。規模拡大とともに、バリューのあるエンジニアの比率が低下するからである。結局は、若年労働者増による平均単価引き下げと工数操作による値付けに陥る。今回の記事が事実だとすれば、大手も下請けも何らの改革もなく、単にデフレを助長して環境の回復を待つという構図である。全くの経営不在としか言いようがない。顧客は単価が高くても、短期間に良いものを作ってくれれば、その方が投資を抑えながら、回収を早めることが出来る。工数計算している限りは、工期の長いほうが、受注側に好都合なだけである。

筆者は個別の企業を非難する気はない。駄目な企業は消滅するのだから。産業としてこのようなことを続けて、誰が喜ぶのかと思っているだけである。結果は、更なる生産性低下、技術力低下であり、顧客も元請も下請けも全てが縮むだけである。最大の被害者は技術者である。単価の下がる分、労働時間が増え、勉強する間は更に減る。資金力、営業力、製品力を頼りに、中小は大手IT製造業者のスカートに隠れている。顧客企業はスカートの大きさしか見ない。このような業界に技術力ある若手が育つ筈はなく、優れたVBが出る筈もない。政府はIT革命と称して、線と箱しか考えない。我が国のような配分の平等を経済原理とする国では、知識産業化は無理なのであろうか。
前途ある若いエンジニアにお奨めしたい。韓国か、中国か、米国か、イスラエルに5年ほど武者修行にお行きなさい。その間に起こるであろうシステム開発手法の変革を、身につけておくことです。シンガポール、インド、アイルランド、カナダでも構いません。どこも日本より先に変革が起こるでしょう。特にWebサービスを早く経験し、身につけることをお奨めする。これまでのソフト開発が根本から変わることがあり得ます。つまり、従来技法の先行者メリットは無くなるでしょう。この絶好の機会を逃す手はありません。