日経 13/11/2

ITサービス・ビジネスとアウトソーシング

JCMと呼ばれる大手コンピューターメーカーが相次いで、サービス・ビジネスの強化を打ち出している。日経新聞(13年11月2日号)は、各社の動きを紹介しながら、アウトソーシングが、主力市場になるだろうと予測している。

筆者は、現在のようなアウトソーシングや、SIビジネスの長期的市場性には疑問を抱いている。筆者が土地感を持つ金融業界を前提に、その理由を述べてみる。

アウトソーシングを利用する企業を見てみると、レガシー化した巨大システムの固定費に悲鳴をあげた大手企業か、IT要員の維持にギブアップした中小企業である。
いずれにせよ、IT費用の削減が第一の目的である。アウトソーシングによる費用削減の方法は、表面的には専門家集団による生産性向上とされているが、実態は、人件費単価の安さであり、ハード機器の所有権移転に伴う経費計上の分散長期化と言える。
アウトソーサーは、開始から3、4年は赤字覚悟で、その後の年金収入で採算を合わせる計算をしている。年金収入とは、10年、20年という長期に渡って、安定した売上が営業経費抜きで期待できるという意味である。ベンダーが豊富なキャッシュを持っていれば、大変うまみのあるビジネスとなりうる。特に、総合IT企業で、ハードの保守やOSやシステム管理ソフトなどの関連ビジネスを包括的に提供できれば、利益率は更に増すことになる。この市場における圧倒的シェアを持つIBMの強みは、これらの条件を揃えている上に、多くの大手企業顧客との長期的信頼関係を築きあげていることにある。

サービス・ビジネスは労働集約産業であり、最大の成功要因は、労働生産性だということを忘れてはならない。労働生産性は一人当り労働コストと生産性指標の一つである要員稼働率で調整できる。これをもとに利益率と売上が決められる。大手金融機関の業務を受託すれば、IT企業の方が顧客企業より給与水準が低く、稼働率も100%となる。通常、サービス・ビジネスの要員稼働率は、70%あれば良しとされている。それが100%になれば、即座に42.8%の生産性向上である。人件費単価を下げる方策は、規模拡大を前提とした若年労働力の新規雇用であり、永遠の売上増の継続を余儀なくされる。
ところが、ハードウエアの価格性能比向上が止まらない。数年もすれば償却中の機器よりも安くなってしまう。顧客業務に密着したアプリケーションなので、労働移動性は抑えなくてはならないので、年功序列型労働単価は年々上がる。一方、金融機関は人件費を総額でも、単価でも急激に削減している。アプリケーションは増大して、顧客視点からは付加価値の見えない保守・維持のコストが嵩む。数年のうちに、新システムに乗り換えた方が安くなるという構造である。つまり、アウトソーサーの採算が取れるようになる頃には、代替策が出来てしまう。契約期間を5年とすれば、外部委託する経済的理由はなくなってしまうであろう。
そこで、戦略的アウトソーシングと称して、新技術の適用を前面に出さざるを得なくなる。しかし、戦略効果を純粋技術ではなく、ビジネスに求めるのであれば、顧客と同等以上の業務知識が必要となる。ITベンダーが獲得できる筈がない、本業ではないのだから。出来るのであれば、自分でその事業をやった方が理にかなう。米国には、長年、本業として経験を積んできたベテランを集めて、後方処理専門のアウトソーシングで成功している企業もある。ただし、多数の中小金融機関が顧客であり、業務知識もIT技能も顧客を超えて、規模のメリットを発揮している会社である。
最近、Webサービスが注目されだした。仮にWebで遠隔地に散在するアプリを連動処理できれば、その効率たるや現在の比ではなくなる。アウトソーサーは、Webインフラに関連するサービスの提供や、認証などのサービスに業務範囲を狭めざるを得ない。どちらも自動化を前提とするサービスである。途端に人員余剰が発生する。リストラを始めれば、優秀で若い社員から転出する。労働生産性は、急速に悪魔のサイクルに陥るが、日本の雇用慣行では、即効性のある施策は打てない。仮に倒産すれば、その顧客の業務は大変な支障を蒙る。これが、筆者の考える悲観的な場合のシナリオである。

ITサービスへの事業シフトを予定している大手JCMは、サービス・ビジネスのモデルが、従来のハード・ビジネスのモデルと全く異なることを無視できない。工場や本社管理部門の社員を再教育しても、即座に月額100万円以上の対価が得られるほど、市場は甘くない。3年待っても成功する人は5%以下だろう。能力というより、文化が違いすぎるのである。これまでは、関連企業や下請け企業の協力と貢献があったから、サービス・ビジネスが成り立ってきた。市場が拡大しているというだけの理由でアウトソーシングに参入しても、年金ビジネスどころか、長期ローンを抱え込むことになりかねない。
JCMの下請けをしているソフト会社は、暗黙の継続的発注による稼働率100%のお陰で安値を実現し、粗利5%程度というビジネス・モデルである。生産性を上げられる余地が少ない。それに比較して、高い単価と低い稼働率、しかし様々な新規業務に挑戦してきたソフト会社との競争力は余りに違いすぎる。電卓で計算してみれば、愕然とする程の差に気がつくはずである。中国などの技術者を活用する方法もある。しかし、言語や産業分化の違いから、金融アプリ開発のユニクロ化は、急速には進まないだろう。このことは、顧客企業の国際的IT競争力を落とすことをも意味する。アウトソーシングやSIビジネスの構造をよく分析して、本格的参入を熟慮すべきである。数年遅れで他社の物真似をして、勝ち上がれるほどITビジネスは、悠長ではない。数年後に実現するであろう事業機会に向けて、確実に準備を進めることしか対策はあるまい。

中小ソフト開発会社は、高付加価値化を進めなくてはならない。これまでは下請け的存在だったかもしれないが、実際の開発作業を通じて、技術と適用業務知識を身につけている。場合によっては、発注元大手IT企業より高い水準にある。プロジェクト・フアイナンスやネットを使ったアライアンス戦略などの、新しいビジネス・モデルに挑戦すべきだろう。
大手金融機関は、工数計算して人月単価を値切ったり、出退勤管理するような時代錯誤のベンダー・マネジメントを脱却すべきである。実力のあるソフト開発会社との協力関係を作り上げなければ、自社のIT競争力を立て直すことは出来ない。