ICタグ実証実験                     


日経新聞6月18日号の記事です。大手電機、通信、印刷会社など170社が、ユビキタスIDセンターの規格に基づき、7月から実証実験を行なうということです。

ICタグは、食品を含めた消費財の生産から小売に至るトレーサビリティを確保する使い方が、一般的イメージであります。私は、金融機関のIT化を支援する立場から、ICタグの使い道を考えてきました。新札にタグを入れるという話を聞いてから、これは書類などの管理にも使えると思ったからです。昔、銀行の営業店調査と称して多くの店舗を一日中観察したことがあります。朝7時頃から営業店に数名で張り付いてビデオをとったりして、動線分析などをするのです。端末機の配置や業務の流れを設計するのが目的です。いつも、奇異に感じたのが、朝当番の行員がまず金庫室を開けます。中から重いダンボール箱を幾つも引出して、前の廊下に積みます。退社する際には、その箱を金庫室に戻します。中味は帳票や本部から送られた還元資料でした。これらは、結局見られることなく、一定期間後に業者が持ち去って、集中保管か廃棄処分されます。

一方、日中は役席や後方担当者が、席を暖める間もなく、店内のキャビネを渡り歩いています。書類の閲覧のためです。書類の内容を見るというよりも保管場所を捜すのが仕事でした。万歩計で計ったら、何万歩だろうなどと感心したものです。

保管場所を瞬時に特定するだけで、一秒三円以上かかっている人件費を相当節約できるでしょう。つまり、書類にICタグを貼付して、保管場所を即時検索するだけでも、大変な合理化になります。原票をイメージ化して内容を自席でオンライン検索すれば、原票の管理は集中センターで全自動化することもできます。タグに書式タイプを記録しておけば、自動認識の精度も向上できます。金融界最後のリエンジニアリングの宝庫と思っています。

日経コンピュータ6月2日号がジレット、マルエツ、伊藤忠の実証実験から把握された課題を紹介しています。例えば、

リーダーとタグとの距離と向きの制約

タグ情報の更新頻度(余りに頻繁だと意味のないデータが膨大になるだけ)

電波を阻害するのでタグ周辺に金属を置けない。

タグ同士を接触させてはいけない。(混信するので)

タグの貼付場所に注意が必要

熱や衝撃などへの耐久性に配慮

などを、具体的環境で確認する必要があるそうです。結論からすれば、商品トレーサビリティには、まだまだ、ICタグの機能改善と利用方法の整理が必要のようです。その意味で170社による合同実験の役割と期待されるものは大きいでしょう。

しかし、前述した書類管理の場合は、商品トレースよりも環境条件が数段有利です。注意する点は、時間的耐久性くらいなものでしょう。顧客から預かる書類には、住宅ローン関連など20年を越すものがありますから。技術的制約は少ないものの、金融界の書類管理にICタグを利用する動きが出てこないことに、原因が二つ考えられます。

@    経営陣で後方集中事務の重要性と前近代的業務処理体制を認識している人が少ない。

A    ベンダーで集中事務を俯瞰して設計できる専門家がいない。特に、金融ITを寡占している大手ベンダーにとってマイナーな分野であり、業務知識をもつ人材がいない。MICRやOCRなどの個別機器の担当者がいるだけである。ましてや、ICタグをビジネスチャンスととらえているのは、流通業界担当者くらいなものである。金融を担当する印刷業者は、未だにICカードばかりに注意を向けている。

というのが実態だろうと思います。

金融のeビジネス化は益々進展するでしょうが、書類の重要性が失われることはなく、その書類が金融業務のSTP化を阻害することも確実です。書類の作成から廃棄にいたるライフサイクルをいかに効率化するかを追求するベンダーがいてもおかしくないと思うのですが。