日経 13/10/24

野村証券のアカウントアグリゲーション・サービス

日経新聞(131024日号)の記事で、野村証券がネット取引契約者に対して、無料で大手3行やJCBなどの取引情報を集約するサービスを提供するという。このサービスは、野村総研が実質的に提供する。アグリゲーション・サービスについては、当ニュース・コメントで2回ほど触れているが、今回は野村総研の新サービス開発に対する姿勢の視点から考えてみた。

アグリゲーションについては、日米の決済制度の違いから日本での普及を疑問視したり、利用者側からみた守秘や安心感、使い易さなどを考えれば、顧客PC上で集約する方式の方が便利だとする考えもある。確かに個人の支払い手段の大半を小切手とクレジット・カード(これすらも最終的には請求書に対して小切手を切る)を使い、個々人が確定申告納税のために日々の入出金を記録しておく必要のある米国と、現金払い・振替振込が圧倒的に多く、源泉徴収納税の日本では、口座管理に関する顧客ニーズは、全く異なってくる。

しかし、個人にとっても多種多様な金融商品が出現し、支払い手段も多様化することで入出金管理は今後、個人客の負担になることは間違いない。加えて、税制改正により金融取引所得が総合課税となれば、その書類整備は極めて煩わしいものとなる。米国とは、若干異なる形ではあるが、その必要性は高まるのではないか。野村証券は、今回の新サービスを完成形とは考えてはいないだろう。顧客を一体となって、使い込むことでサービスを進化させる考えなのだろう。

筆者は、欧米の金融機関訪問に野村総研の支援を受けたことが何回かある。その際に何時も感心したのが、NRI駐在員の皆さんが現地金融機関のあらゆるレベルのマネジメントとの関係を構築していたことである。これは、明らかにギブアンドテイクを続けている証拠である。さもなければ、日本からの訪問者に心よく、自分たちの現状や計画を話す筈がない。日常的にNRIが彼らに役立つ情報を提供していたのだろう。訪問時間中、NRI社員はあくまで紹介者の態度を保っていた。夜の食事時などプライベート・タイムに彼らと話すと、彼らの本当の役割が見えてきた。つまり、同席することで訪問先に関する情報収集をするとともに、日本からの訪問者の問題意識やその背景等を把握しているのである。表面的情報収集のみでなく、多くの場に立ち会うことで、日米双方の大きな流れを掴むことができるのである。これらの結果は、当然レポートとして社内を流通することになろう。それも単に形式的報告に止まらず、ビジネス・チャンスを追求しているようである。しかるに、同行した銀行マン達は、土産物を買うことや観光名所巡りが意識の第一であり、第二は帰国後に提出すべき報告書の作成である。それも極めて形式的なものであることが多い。私は「あ〜あ、こっちが金を払ってNRIに貴重な情報をあげているようなものだ。」と思った記憶がある。

加えて、銀行と証券との産業文化の違いも大きい。銀行界では限りなく10割に近い打率を求められる。対して証券界は5割以上の打率があれば充分である。つまり失敗が許されるのである。失敗から得る経験を次に活かせることができれば良い。特に、昨今のようにスピードを要求される時代は、短期間に試行してみて、即座に軌道修正できることが重要である。その意味で野村総研の新サービスに対するパイオニア的風土は、わが国金融業界に稀少なものである。率先してアイデアを採用する顧客企業として、野村証券があるのも大きい。今回のアグリゲーション・サービスそのものでは、さしたるビジネス成果は期待できないであろうが、その経験から得られる知識とアイデアは貴重なものであろう。そして、NRIはその費用を顧客に負担してもらえる。まさに、知識産業型ビジネス・モデルである。