証券化市場

日経新聞が4月17、18日号で「脱・資産 金融」、日経金融新聞が同じ17、18日号で「進化する証券化市場」と題する特集を行なっています。

デフレ時代において巨大な資産を持つことは、多くの場合に損失の発生を意味します。ましてや、知識産業においては、その生産手段として人的資産の重みが増して、工場設備などの資産は相対的価値を減衰させます。一方で、流動性の高まる人的資産を安定化させ効率稼動を促進させるITや研究設備の重要性が高まっています。このような時代趨勢に対して、経営の評価基準である財務戦略をどうすべきかということは、 知識として自明であります。成功基準が資産、資本、売上げ、社員数であった時代から脱却できていないことが、今日のわが国金融機関における最大の弱点と言えるでしょう。低迷が続く金融サービスの現状を打開するには、直接金融と間接金融の中間に存する第三分野と言われる証券化に筆者は期待しています。しかし、その足並みは遅く、証券化を促進するレバレッジを模索してきました。進まない理由として、商法、民法、業法など法整備の遅れと、証券化の根幹にある金融工学を理解できない金融トップの勉強不足があると考えています。

日経の特集では、三井住友の金融信託を原資とした信託活用融資、UFJのローン担保証券(CLO)、新生の不動産事業向けノンリコースローン、複数地銀による協調融資、みずほCBのコミットメントラインなどを紹介しています。いずれも、銀行資産による金利収入ではなく、手数料収入を目的としたものです。多くは、米国では十数年前より積極展開されてきた業務です。

日経金融の特集は、証券化の対象資産や市場規模などを取材しています。良く知られる不動産や売掛債権などを担保とした証券化だけでなく、将来の収入見込みや休眠特許など知的財産権も対象になってきたとしています。「キャッシュフローを生み出し、担保化できるものはすべて証券化できる」という専門家の意見も紹介しています。市場規模は、5兆円とも8兆円とも見積もられており。国債よりも0.1〜0.7%高い利ざやが期待できるそうです。また、外資系証券の動きとして、水道、病院などの公共性の高い事業に関わる資産をSPCを通じて証券化して、事業主体は事業運営に専念するというビジネスも紹介しています。証券化を高く評価する一方で、マイカル破綻における商業用不動産ローン担保証券(CMBS)の法的リスクを紹介しつつ、投資家側のリスク評価能力向上や契約条項の国際基準化などが急務だとしています。

筆者も証券化に関する案件を何件か経験しました。しかしながら、セカンダリーマーケットしての流通市場の薄さには驚くばかりです。多くは、発行主体が複数の債権をプールしてSPCに移管し、それをアレンジャーが特定の機関投資家にはめ込む。その際に、優先部分を販売し、劣後部分は発行主体かアレンジャーが引き受ける(実はこの部分が尤も利幅が大きい)という、本来の証券化とはほど遠い閉鎖性に限界があります。二次市場育成による流動性を高めなくては、証券化の意義は半減してしまいます。

もう一つの問題点は、ITソリューションの遅れです。

発行主体(オリジネーター)のオリジーネションを支援するITソリューションは意外と面倒です。対象となる複数の債権に関するロット、期間は勿論、個々のリスクを評価する為のデータは複雑です。多くは基幹系システムに保存されています。それを取り出して整備する為に、毎回、データ収集と整備が必要となります。また、証券会社や信託銀行が行なうアレンジメントを支援するシステムでは、オリジネーターが提供する債権関連データを分析・リスク分類しながら優先と劣後に分離し、リスク評価したROIを算出します。その際には、DCFを算出する為の種々の金融モデルが適用されます。このようなオリジネーションとアレンジメント用のITソリューションは意外と少なく、筆者の知る限りでは、商社系ITベンダーのパッケージと銀行系システム会社の計算受託サービスしかありません。IT支援なしですと、経験済みオリジネーターで3ヶ月以上、始めての場合で6ヶ月以上の発行準備期間が必要です。何とも悠長な話で、これが発行市場の成長を阻害しています。二次市場向けのITソリューションは、インターネットやそれを発展させたWebサービスを使えば、簡単なものですが、それも標準的なものは何もありません。金融工学の世界は、技術至上の傾向が強く、市場全体の仕組み考える人材が少ないということでしょうか。

IT企業にとっては、自ら市場を創生しつつソリューションを提供するのは、タイミング上の難しさがあるでしょう。しかしながら、後追いをしている限りは、利益率の高いビジネスは不可能です。オリジネーター・システムもアレンジャー・システムもソフト・パッケージ化で現在5千万円から1億円程度のソリューションです。ハードは殆ど不要です。大手ITベンダーが対象にするマーケットではありません。まさにニッチ市場ですが、だからこそ事業機会が多いのです。これからの金融ITマーケットは、業務知識さえあれば、中小ITベンダーが勝てる市場だと思います。大手SIerは、余りに大きくなりすぎました。