日経 13/10/19

4大銀行のシステム投資額

日経新聞(13年10月19日号)の記事で、4大銀行の2002年度IT投資額が、7千億円になるという記事である。

4大グループ全体の連結資産を単純合計すれば約485兆円であり、それに対するIT投資額の比率は、0.144%であり海外大手行との比較においては、驚くような額ではない。タワーグループなどの調査結果をみれば、米銀では0.5%以上の銀行がザラである。

このような数字を見る時に、注意すべき点が2、3ある。

まず、投資額の定義は統一されていない。そもそもが、キャシュアウトの金額なのか、PL上で経費として計上する金額なのか、単に社内役員会の方向稟議としておおまかにプロジェクト単位で上申した金額の合計なのか、広報部が他行の様子を見ながら資産規模比較をして、恥ずかしくない程度の金額を記者に語ったのか。細かいことを言えば、償却やリースの年度別計上の基準、IT要員人件費および関連物件費は含むのか、IT関連会社に出向している行員人件費の扱い、通信回線関係費用の扱い、光熱費、開発途中の繰延資産の扱い、ユーザー部門が独自に導入したシステムの費用・・・・と言い出せば、際限なくまた、比較のしようがない程、前提が違うのである。筆者は、コンピュータ・メーカーの営業企画担当の時に、10年近くも、この整合性のない投資額で悪戦苦闘したものである。そこに、また日銀が銀行協会の協力を得て、各行のIT投資計画をアンケート調査し、短観の中で発表する。この数字が、またいい加減である。日銀に報告しておかずに投資すれば、非計画的と非難される恐れから、水増しして回答するのである。予実比較はないから、毎年これを繰り返す。実態よりは、相当水膨れした数字になる。ITベンダーは、この数字で市場規模を予測して、シェア・アップ計画をたてる。銀行では、他行がこんなに投資するのに、ウチは大丈夫なのかと頭取がCIOを問い詰める。CIOは、ベンダーと相談して予算の少し増額を上申する。こうして、毎年IT投資が増えて、何かコトがあると業界そろって、投資が止まる。その間に膨大な保守運用費が流出しながら、IT要員の技能が賞味期限切れとなる。IT技能が低ければ、次の大規模プロジェクトの時に、数段、巨額な投資が必要となる。今が、ちょうど、そのような段階なのかもしれない。

次の注意点は、何に投資しているのか、全く分からないので、金額を比較しても、さしたる意味はないということである。通常、70〜80%は、保守運用費で使われる。購入した製品価格の15〜20%が毎年、ITベンダーに保守費として支払われる。ソフト開発費の20%前後が、ソフト保守費で必要となる。システムが複雑・巨大化するほど、運用費もかかる。これらは、全て固定費であり、新しい価値を生まないままに、年々自己増殖する。提供側にとっては、年金ビジネスと称される安定確実な収入基盤であり、高い利益率が可能となる。ユーザーにとって、それを支払う以外の選択肢は、システムの停止か再構築だけである。開発すればするほど、保守運用費は上がっていく。投資金額の多寡よりも、その使途が重要であることは当然である。使途は業務分野別、システムのライフサイクル別に捉える必要がある。

現在、銀行業界で主要な投資対象業務は次のようなものである。

1.新営業店システム
2.CRM(定義は曖昧であるが、顧客DB,コールセンター等)
3.融資審査・回収・自己査定システム
4.401k関連システム(レコードキーピング共同開発への出資、販売管理、制度設計等)
5.企業向けCMS(グローバルを含む)
6.インターネット・バンキング,金融ポータル
7.決済システム(日銀決済ネット、新全銀、新ATMネット等)
8.資産運用管理・証券管理システム
9.新システムインフラ(MQEAI、IPネット等)
10.システム統合(合併時)、システム分割(持ち株会社化時)

最後の注意点は、新規開発に伴う投資の大半が、ソフト開発であり。そのプロジェクト・リスクが極めて大きいことである。稼動しないリスクよりも、稼動遅延、開発生産性、投資回収リスクが大きい。
単純計算するとこうなる。もともと大手行の保守運営費は1行当りで年間200〜300億円だったので、4グループ総計7千億円の内、4〜5千億円程度が新規開発投資と見ることができる。4千億円の50%(少なめに見て)がソフト開発費用だとすれば、2千億円が外注開発費である。人月100万円として17千人前後の外部要員が開発に携っている。自行要員を含めれば2万人を超える。こうなると少数精鋭とはいかない。質より量となる。プロジェクト管理が出来る人材も極めて限られており、効率も品質も級数的に悪化する。
更に、わが国のソフト業界は技術者の流動性が低く、人月ベース料金体系の重層的下請け構造なので、業務知識を有する外部要員は稀少である。結果として、ビジネス・ニーズを満たすことが極めて難しい。ハード中心の投資であれば、投資金額にそれなりの意味があるが、ソフト中心となると、開発リスク管理が最重要ポイントとなる。トップガンと言われるような水準のプロジェクト・マネジャーと業務・IT双方を熟知したエンジニアを確保することが、ITサービス競争の成功要因である。