営業店事務の合理化・効率化を阻むもの ◇



 この論考は、財団法人金融情報システムセンターの機関誌「金融情報システム」平成22年夏号に掲載された講演録に加筆したものです。元になる講演は昨年12月に開催されたFISC地域金融機関IT研究会第3回研究会で行いました。

その際は公益組織での講演ということで、できるだけ客観的事実を紹介させて頂きましたが、本論考にある個人的見解の多くは、今回加筆したものです。

融資市場の拡大が見込めず、貸出金利も競合による低下傾向にあり、投資運用もリスク限界の制約を受ける状況にあるため、地域金融機関は新たなトップライン収益源と更なる経費削減を追求せざるをえません。その際に、今までとは異なる視点でITを活用すべきであり、その効果が不透明であれば、脱ITを図るべきではないかとの考えを紹介しています。

                          株式会社金融ビジネスアンドテクノロジー 

                                           代表 島田 直貴


   −はじめに−

 1.経営戦略とITの適合

 2.リエンジニアリングで失敗しないために

 3.現状プロセスの見直し

 4.営業店とシステム化の現状

 5.合理化・効率化を阻害するもの

 6.欧米の金融機関との相違点





はじめに

金融機関の営業店事務合理化・効率化が所期の目的どおりに達成されていないのはなぜかとのテーマに対し、あえて逆説的な問題提起をします。「そもそも、これ以上の事務合理化・効率化を行う必要があるのか。営業店の事務効率化は既に限界に達しているのではないか。」

事務合理化・効率化は、数字のマジックでごまかされることが多く注意が必要です。例えば、「この機器を導入すれば営業店人員を合計20人削減できる」と考える金融機関が100店舗を有している場合、計算上1店舗あたりでは0.2人の削減が目標となります。しかし、人間を0.2人削減することは不可能ですから、結局は一人も減らせないことになります。ただ、これをもって効率化の所期の目的が達成されていないと考えるべきなのか。削減人数が真の目的だったのか。事務合理化・効率化について論じる際には、こうした数字のマジックに惑わされないように、目標を明確に定義しなくてはなりません。

本講演では、事務合理化目的のリエンジニアリングにおける留意点を説明したうえで、効率化を阻害する具体的な問題を指摘します。

 

1. 経営戦略とITの適合

[図表1]は、「経営戦略」「ビジネスインフラ」「IT戦略」「ITインフラ」の相関図です。「経営戦略」と各項目をつなぐ太い矢印が両方向を指していることが示すように、一般に経営戦略と業務やITとの間には整合性(アライメント)が確保されていることが望ましいと考えられています。確かに、評価の高い情報システムでは、このモデルにある4つの要素グループが適切に組み合わされています。

 

[図表1] 戦略アライメント・モデル


 

コンサルタントは、まず経営戦略を明確にし、それに基づきIT戦略を決めたうえで、ITのインフラを含めた導入を行うべきだと説きます。その結果、「トップが経営戦略を決めないからITの戦略も決められない」というシステム部門の逃げ口上に使われることがあります。

ところが、実際にITを上手に活用している金融機関は、必ずしも経営戦略からスタートしIT戦略を立てているわけではありません。このような金融機関は、システム部門の責任者やその補佐役が有能で、彼らが中心となって経営と連携しながら適切なシステムを構築します。

例えば、古い話ですが、かつて地方銀行や信用金庫の電算部門の次長・課長クラスの職員が、米国の銀行を視察した際に、「事務処理を集中すれば20%以上生産性が上がる」とか「紙を減らせば事務が減る」 という教訓を得て集中事務センターや地区センターを構築しました。後者の教訓は、現在では当たり前になった口座自動振替などの「センターカット」という処理方式として実現しました。このように、システム部門の中間管理職として、経営戦略とは直接に関係のない立場だった人達が、非常にすばらしい合理化・効率化策を作ったのです。IT戦略が経営戦略に影響を与えることは、望ましいことであり、最近こうした動きが減ったことに問題があります。

 

2. リエンジニアリングで失敗しないために

 [図表2] はリエンジニアリングの概念整理をしたものです。リエンジニアリングが予定通りに成功したという事例はありません。金融機関は成功事例を聞きたがりますが、むしろ成功しなかった理由や阻害要因のほうが有益なのでそれを[図表2] 左下に「反省点」として列挙しました。

 

[図表2] リエンジニアリング


リエンジニアリングのポイントを1つ話します。[図表2] 左側に「商品」「スキル」「組織」など、楕円形の吹き出しで括った8つの経営要素(エンティティ)があります。これらは、「ソフトなエンティティ」と「ハードなエンティティ」に分かれます。商品や組織は、目に見えますし、少し手間をかけて設計すればすぐに実行できます。ハードなエンティティと呼びます。一方、企業文化やスキル、評価制度は、目に見えず、地道に積み上げていくソフトなエンティティです。この両方を上手に組み合わせて、作業が円滑に進むように整理、ルール化したものが「プロセス」です。一度導入してしまうとなかなか変更することができません。ソフトなエンティティが邪魔するからです。

経営者の多くは、短期間で成果を上げることを期待して、しばしば組織などのハードなエンティティをいじくります。しかしながら、金融業を含むサービス業では、ハードなエンティティを変更しても効果が余り上がりません。上がっても一時的です。むしろ、人材を活かす仕組みであるソフトなエンティティを変えていかなければなりません。ところが、このソフトなエンティティを改善していくことには膨大な時間・労力がかかります。情報技術は再編成されたソフトなエンティティを確実に維持する手段であると言えます。ITだけでリエンジニアリングを図るよりも、効率化や高付加価値化の成功可能性が数段高まります。

ホワイトカラー業務のリエンジニアリングは、もともと非定形で少量多種の仕事が多いという性格上、容易ではありません。金融業務は標準化されているようで意外に標準化が進んでいないところがあり、例外処理業務が効率化の足を引っ張っています。しかし、例外処理をなくした事務サービスで顧客の維持が可能かという問題もあります。

冒頭、効率化を通じた人員削減の難しさについて述べましたが、本当に人を減らすのであれば、先に人を減らしてから、その人数で残業しなくてもできるような効率化策を実施すべきです。単純にITによる効率化を図っても、浮いた時間は瞬時に他の既存業務に使われてしまいます。むしろ人手不足に耐える為、懸命に知恵を使って効率を求め、価値の低い作業を排除する姿勢や組織文化が重要です。ITが効率化の必須前提となり、改善サボタージュの理由になってはいけません。

 

3. 現状プロセスの見直し

 [図表3] は、リエンジニアリングを行う方法についてまとめたものです。そのほとんどがプロセスの削減や統合、平行処理化、集中化、分散化など「プロセスの設計」に関する手法を示したものです。多くの金融機関が、こうした点に注意しながらプロセスの見直しを行ってきました。

プロセスを変えないと効率化になりません。例えばペーパーレス化です。融資支援システムを導入し稟議書を電子化したものの、プロセスは変えず、書面をパソコンのモニター画面に変えただけでは効率化につながりません。画面をプリントするなど、かえって作業を増やすこともあります。または、プリントの手間を嫌って、重要な情報ですら見なくなるケースもあります。

金融機関は長い歴史の中でコンプライアンスや不祥事対応などの理由があって改善し続けたプロセスを大きく変えることを本能的に嫌います。銀行事務の大半である記帳事務だけを見れば、どの金融機関も同じ作業をしている筈ですが、実際には千差万別です。組織態勢、権限、事務規定、チェック&バランスなど長年にわたる経験と知恵で精緻に構築されています。変えても良い業務、なくしても良い業務を見極めることが必要です。中にはコストと事務品質が対立することもあるでしょう。関連部門の力関係だけでは全体最適は不可能です。経営判断が必要となります。経営陣の事務に対する優先度の低さを打開しなくてはなりません。

 

[図表3] 現状プロセスの見直しポイント

 


 

4. 営業店とシステム化の現状

冒頭、「これ以上の営業店事務の効率化や人員削減は必要だろうか」 と疑問を投げかけました。地域金融機関の場合、総資産に対する人件費の比率は0.3〜0.4%程度です。そのうち営業店の占める部分が約8割とすると、全体の総資産に対する営業店人件費の割合は0.3%以下です。その1割を効率化しても、効果は0.03%だけです。仮に資金を消費者ローンにシフトすれば10%以上の粗利が取れるわけですから、合理化・効率化を進めるよりも大きな利益をもたらします。コストを絶対額だけで見ずに、OHRの分子と分母で見るべきです。それを判っていながら、効率化というとコストの絶対額だけで考える習性を改める必要があります。

近年、金融商品やサービスの種類が増え、それに伴いトランザクションも増えています。営業店関係のトランザクションの約9割は既にシステム化により自動化されています。残り1割が手作業による負担を生じさせるもので、例えば諸届事務などの現物関係、税金関係、勘定締め上げの負担などが挙げられます。営業店事務を合理化・効率化するため、これらの事務をできる限り顧客自身に操作してもらうシステム化は効果的な方策であり、今後も進められていくでしょう。しかし、それによって営業店の人員を1人でも減らせられるような規模の店は限られます。既に営業店行職員は1人で何役もこなしているうえ、パート化も進んでいます。その一部を自動化しても人員削減にはなりません。大半の営業店においては、IT化による人員削減効果はほとんど期待できず、増員防止効果を期待するだけと考えられます。

インターネット・バンキングも不可欠な顧客操作型チャネルとなりました。この分野のIT投資に関しても数字のマジックが見られます。「ネット取引は窓口取引に比べて約20分の一のコストである。20億円の投資も人件費換算すれば、約200人年分であり、一人が一日200件の処理をこなせることを考えれば、1日2万件処理すれば2年で採算が取れる。現在の取引件数は、一日3万件以上なので、充分に採算が取れる投資だ。」というロジックです。しかし、ネット・バンキングで利便性が上がり、取引が小口多頻度化していることは考慮されていません。また、ネット経由取引にシフトしたとしても、窓口取引がなくなり営業店窓口担当者が不要になる訳でもありません。むしろ、チャネル・コストは二重化します。こうした数字のマジックは、企画担当者も承知しています。しかし、IT投資の根拠付けとして、営業推進効果は経営陣の理解が得難い。どうしても、人件費換算となってしまう。その結果、営業推進に必要な他の関連施策が疎かとなり、効果が半減してしまうことが残念です。経営陣がITの価値や活用方法を理解していないこと、マーケティング効果を測定する方法が未開発なことが原因です。

一方、本部やシステム部門はどのような状況なのでしょうか。多くの地域金融機関ではシステム共同化やアウトソーシング化が進み、システム部門の人員を大きく削減しました。システム要員は、平均年齢40歳代となり、汎用機の技術しか知らず、後任を育てていない状況にあります。わが国地域金融機関のIT部門は、深刻な人材枯渇の問題に直面しています。ベンダー側でも、金融機関の営業店事務に熟練したIT技術者が減少しています。それは当然の流れで、金融機関のIT能力が劣化すれば、それを顧客とするベンダーの能力も劣化します。この逆スパイラルをどこで止めるかが、わが国金融業界の他産業や外国金融機関との競争力を左右するでしょう。

金融庁の4〜5年前の調査によれば、金融機関の1顧客あたりのIT費用は、大手銀行が5,300円台、地銀が2,300〜2,400円台、信金・信組は1,600円台でした。大手銀行のほうが多くの種類の商品を取り扱い、積極的にIT投資を行うため高くなるのでしょうか。それにしても、規模とコストの逆相関には驚きます。金融業務IT化においては、規模のデメリットがあるとも考えられます。

 

5.  合理化・効率化を阻害するもの

 [図表4] は、伝統的な考え方や通念の中に合理化・効率化を阻害しているものがあるのではないかという仮説をまとめたものです。いくつかにつき、少し具体的に説明します。

 

[図表4] 合理化・効率化を阻害するもの(仮説)

 

 1自動化より人手の方が効率的な場合もあるのではないか。

自動化より人手の方が効率的な事務もあります。「件数が少ない商品」「寿命が短い商品」「古いが廃止できない商品」などの取扱いです。こういう商品は、ホストから外し、手作業、またはパソコンで処理した方が効率的です。なぜか金融機関は、大型汎用機で処理し、専用プリンターで出力した帳票を好みます。Excelで作成し安価なプリンターで印刷した帳票は信用しないという通念は改めるべきです。

 

 第2、細切れのIT化が、現場負担を増していないか?

特に顕著な例はコンプライアンス関係です。監督官庁は金融機関に対して多くの施策を次々に課してきます。ベンダーも「個人情報保護」「セキュリティ」「アンチマネロン」「反社対策」「金商法対応」などと次々にソリューションを開発しセールスしてきます。多くの金融機関がこうしたアプリケーションを別々に導入し、現場負担の増加要因になっています。同じような対策をバラバラに導入するからです。制度を決める側に配慮が欠けていることは事実ですが、個別に都度対応する側にはもっと問題があります。

 

 第3、導入が目的化して、現場に迷惑なIT化施策がないか。

導入が自己目的化しているシステムとしては、制度対応のためのシステムが代表例です。普段は財布の紐が硬い経営陣が、当局から要請されているという理由で、システム部門の反対を押し切り、数億円もの予算をかけてしまうような話があります。最近の事例ではATM生体認証によるカード犯罪防止です。引出上限額の引下げや類推容易な暗証番号禁止で解決できた問題でした。また、他行が導入したからとトップダウンで決定されるケースもしばしば耳にします。最たる例がCRMです。使いこなしている、営業効率が上がったというより、営業担当者の負担が増えただけとの声を良く聞きます。それでいて、ITコストが高いと経営陣はIT部門を非難します。問題の根本に、コストと期待効果の基準がないことがあります。

 

 第4、過剰サービス、品質を当然としていないか。

わが国金融機関は、あまりにも過剰サービスになっていると思われます。

例えば、ATMは少々のダウンも許されません。障害で使えないと顧客は強い不満を口にします。実際には、他行や提携ATMなど代替策がある場合でも不満をいうのが当然となっています。メディアや行政も障害を非難します。イメージダウンを恐れて、障害対策に膨大な費用を投じます。障害ゼロのシステム・サービスにはコストがかかりますが、受益者負担の考えは出てきません。いたずらな無料化競争ではなく、もらうべき手数料はもらうことが必要です。口座維持手数料を課すのも1つの方法でしょう。預金過多の今が絶好の機会ではないでしょうか。

サービス満足度は顧客によって異なります。全ての顧客に完璧なサービスを追求することは無限のコスト増を意味します。サービス品質とコストの最適化を図るためには、顧客タイプ別のサービス・レベルとするか、コストが急増する分岐点でサービス品質を寸止めする勇気が必要です。このような考え方は、株主利益よりも地域貢献を優先する地域金融機関の経営理念と矛盾するものではありません。

 

 第5、必要のなくなった機能やプロセスを廃棄しているか。

システムにソフトを組み込むことよりも、廃棄することのほうが大変です。必要のない機能は利用しないようにすればよいのですが、取り外す場合はその影響する全てを検証し、修正しなくてはなりません。機能が残っていると利用してしまい、保守を継続することになります。シンプルで小さいシステムが最も壊れにくく、より速く処理できます。年に1回程度は不要なソフトを廃棄する仕組みが必要です。その時に、営業店から関連する事務プロセスを排除します。金融ITは昔から、大規模で、複雑で多種多様な業務を処理していることが優れている証と思われてきました。シンプル・イズ・ベストの原則に戻るべきです。

 

 第6、IT資産償却期間が短く、計上費用が受益実態と乖離していないか。

IT資産の償却期間は概ね5年か6年です。汎用機による基幹系オンラインはハードが10年前後、ソフトは20年以上も使用します。償却の期間中と後の費用差が大きすぎます。企業は通常、対前年比でコストを見ますから、償却済みでもうかつに予算を落とせません。結局は右肩上がりとなります。寿命の短いオープン系システムの場合、システムライフ全体のコストで比較すると、寿命の長い汎用機システムより高コストとなるケースが多いことは簡単に予測できます。一方、アウトソーシングした場合はいわゆるサービス料の支払いなので短期間では安く済んでも、10年、20年という長期となると、トータルコストが割高になることが多い。一種のオペレーティング・リースと言えるでしょう。ましてや自社内にIT人材がいなくなれば、コスト管理は実質不可能となります。金融を業とする金融機関としては、IT資産の管理抑制に、信託や証券化などの金融技術を活用すべきでしょう。

 

 第7、現場の要望を全体最適化しているか。

システムのすべてを営業店行職員の言うとおりに改善してしまうと、かえって改悪となることが多い。プロセスを増やして複雑化させるからです。効率を落とさず、現場の意見をどこまで取り入れるかが重要な判断となります。全体最適と部分最適のバランスの問題ですが、個人最適は排除しなくてはなりません。特に営業トップが変わる都度、過去のプロセスはそのままに、新たなプロセスが増えることが多いようです。

 

 8効果管理をしているか。

管理していても、机上の空論ではないか。 一般に金融機関では、システム部門がシステムの企画立案をしていることから、その効果測定についても責任を負わされています。ところが、システム部門には現場や本部各部に対する指揮命令権がないことから効果検証を行うことが難しい。理想的なのは、ユーザー部門が予算措置をしたうえで、システム部門に対してシステム構築を委託し、そのシステムのオーナーとなることです。そうしてこそ、実体に即した効果測定ができ、利用方法を含めた改善も可能となります。最終的には部門収支で業績評価すれば良いでしょう。

 

 9、ペーパーレス化は本当に合理化になるか。

ペーパーレス化により営業店事務を合理化・効率化するとしても、前述のようにプロセスを再編成する必要があります。その点で、生保業界が追求しているキャッシュフリー、ペーパーフリー、組織フリーのプロセス設計が注目されます。ペーパーレス化した結果、欲しい情報を画面からメモしているようでは逆効果です。

 

 第10、勘定締め作業に拘りすぎていないか。

45年前に三井銀行が普通預金のオンラインを稼動させました。そのシステムの目標は普通預金の締上げ作業を効率化することでした。ここから銀行のオンライン化がスタートしました。その後、アプリケーションや商品を次々に追加し、総勘定元帳中心のシステムを作り上げたのです。このようなシステム構成を採る国は日本だけです。その後、この総勘定元帳は2次オンラインの中心となり、3次オンラインの時も見直すことなく継続してしまいました。それが今の巨大システム化の原因です。金融システムは一般に「勘定系」「情報系」という分け方をしていますが、その理由は単純です。当時の大型汎用機には、オンラインを稼働させながら情報系バッチを実行できる処理能力がなかったからです。そのため、オンラインよりもはるかに処理能力を費やす情報系バッチを分割したのです。

現在も続いている「勘定系」「情報系」というアーキテクチャーは、昔のテクノロジーの制約の中で、知恵で編み出したものです。現在は光デジタルの大容量回線が安価に導入でき、1セットで数万MIPSの処理能力を持つサーバーが市販されています。3次オンラインが設計された30年前の数千倍の能力です。それでも、旧来のテクノロジーを前提としたシステム体系とネットワークを利用しています。オープン化といっても、基幹系システムの基本構造は何も変わっていません。このようなシステム体系を見直すことでも、効率化は大きく進むでしょう。

 

11、事務はコストなのか、付加価値サービスなのか。

営業店の合理化・効率化を行った成功例として知られるのが、埼玉りそな銀行です。徹底的な事務の合理化を行い、OHR(Over Head Ratio :経費率)を47%まで落としました。一方で、営業店職員のビジネスマナーのレベルを上げて、顧客満足度を相当に高めています。営業店は事務の拠点でありサービスの拠点です。顧客はセールスされるために営業店には行きません。事務を早く処理して欲しいと思っています。

一般企業に喩えると、金融機関では、預金が仕入で、融資が販売です。ところが、金融機関では預金集めが第一で、融資がその次という独特な考え方をしています。それが正しいのか考え直す時期でしょう。ATM手数料の無料化などは、顧客サービス改善かもしれませんが、コストを大きく増やす原因でもあり、合理化・効率化と逆行していると思われます。数パーセントの優良顧客からの収益で、90%以上のコスト客に過剰サービスを提供する事業が継続できる時代ではなくなりました。全ての顧客に一律的なサービス提供することの是非を検討すべきです。

 

6. 欧米の金融機関との相違点

 

(1)システム部門の位置づけ

日本の金融機関では基本的に、ITに関するすべての権限と責任がシステム部門に集約されています。ところが、欧米の大手金融機関では、コーポレート全体を俯瞰するシステム部門もありますが、ユーザー部門、事業部単位にもIT部門があります。その中でシステム開発・保守を自己完結させる態勢が定着しています。新商品の追加やプロセスの変更も容易となります。別の視点からすれば、事業部単位でシステムも含めて売却移管できるため事業統廃合もやり易い。日本では、システム統合が出来ず合併をやめたという話もあります。総勘定元帳を中心に、全体を一括りにしたシステム体系と態勢の限界が明らかになっています。

 

 (2)制度対応へのIT投資負担

金融機関のシステムで極めて負担の大きいのが、いわゆる制度対応にかかるコストです。IT投資や人件費などをすべて含めると、金融機関の経費全体の20%を超えていると推測されます。金融機関は当局から重いハンディキャップを背負わされています。特に個人顧客の保護が金科玉条となりました。最も弱い顧客に合わせた保護策を一律に全顧客に適用すれば、コストもサービスも劣化することは明白です。10数年前に英国の銀行協会がこのコストを調査したところ、経費の20%強という調査結果が出ました。この結果をもって当局に対して規制緩和を提言し、一部を実現させたことがあります。制度対応といえども最終的には顧客と株主の負担となります。銀行の公共性概念を整理しつつ、社会的合理性に叶う負担方法を検討すべきです。

 

 (3)事務集中化

欧米の金融機関では事務の集中化が進んでいます。書類と小切手が今でも大層を占めているため、コストの低い行職員を大量に窓口や後方部門に配置しており、合理化余地が極めて大きいのです。独立系のBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)業者が活躍しています。金融の基幹機能である後方事務の専門家ばかりを集め、システム対応もその専門家達が自力で行います。金融機関以上に高い専門性と効率を発揮しています。日本でそれに等しい経験、技能を持つ人材は、金融機関内部に少数いますが、多くの金融機関に分散しています。更にこうした人材の退職年令が近付いています。解決には、金融業務におけるバックオフィスの重要性を再認識し、専門職として遇するか、専門家を集中することが必要です。即効性の高い方法は、複数の金融機関が共同して事務集中処理専門会社を設立し、ハイテク装備することでしょう。

 

おわりに

 

日本の金融機関は、これまでにも最大の努力を払って営業店事務の合理化・効率化を行ってきました。これからも合理化・効率化が求められるでしょう。ITを活用しても合理化・効率化が見込めない場合には、IT抜きで競争に勝てるような戦略を考えてみるべきです。ITの重要性は認識しつつも、ITに頼らないプロセスやビジネス・モデルを追求するのです。通常、ITは模倣が容易ですから、究極の差別化要素とはなり憎いことを認識すべきです。むしろ、人間による差別化のほうが持続性を期待できます。個々の社員が蓄積する経験やノウハウ、顧客との関係は、その銀行にとって大きな財産です。こうした社員の能力を引き出し、活用することが合理化・効率化につながります。ITに合わせて人間に作業させていたのでは、人材を活用することはできません。金融サービス業において、ITはあくまでも人材活用の推進道具と考えるべきです。