◇ ローン審査 ◇


この論文は、長年に渡って個人ローンのビジネス・プロセス改革や審査モデルの開発に携わってきた専門家によるものです。

2年ほど前まで、個人向けローン審査は、統計数値によるスコアリング・モデルが主流でした。規制当局が推奨したこともあり、メガバンクだけでなく信用金庫など地域金融機関までが、自行庫用にカストマイズしたオートスコアリング・モデルを採用しました。画一的基準であることから、様々な問題点が指摘されましたが、横並びを常とする産業文化によって、こうした問題点は無視されました。

ところが、一部銀行でオートスコアリングに頼りすぎた結果、大量の不良債権を抱える事態となり、今度は一転、オートスコアリング有害論に傾いてしまいました。要は、定量的審査と定性的審査のバランスという与信の大原則の戻ればよいのですが、残念ながら定性的分析の経験と知識を持つ審査マンが激減してしまっています。

こうした状況下、改めて注目されているのが、アソシエーション分析という、定性要件をモデル化する手法です。筆者たちは、多くの経験に基づいて、アソシエーション分析を個人ローンに適用するための基本を解説しています。ご一読いただき、今後の審査モデル構築の参考にして頂きたいと考え、ご紹介いたします。

                                             平成20年12月15日   島田 直貴



ローン審査におけるリスク判別精度向上のための審査ルールの導入
〜アソシエーション分析の活用〜

                              ビュルガーコンサルティング株式会社

                            丸谷 淳   山下 諭史

目次

1.ローン審査におけるリスク判別精度向上の要請

2.スコアリングモデルでカバーできない領域の存在

3.審査ルールによるリスク判別精度向上施策

4.審査ルールの体系化におけるアソシエーション分析の活用

5.審査ルールの業務への適用

6.審査ルール構築のための作業内容例

7.おわりに

補足資料

 

骨子

  1. 住宅ローン市場の伸びが鈍化する中で住宅ローン貸出競争が進み、住宅ローン延滞率が上昇してきており、リスク判別精度向上の必要性が増している。
  2. ローン審査の世界で浸透しているスコアリングモデルによる審査手法は、その性格から対処できない領域が存在する。
  3. スコアリングモデルでカバーしきれない領域に対処するために、現場のノウハウとして存在している暗黙知を形式知化して審査ルールとして審査体系にとりこみ、リスク判別精度の向上をはかることができる。
  4. 現場のノウハウを形式知とするためには、審査担当者へのインタビューなどで収集することも可能だが、アソシエーション分析を活用することで、膨大に存在する審査視点をカバーして審査ルールとして体系化することができる。

1.ローン審査におけるリスク精度向上の要請

(1)住宅ローン貸出市場動向

住宅ローンの貸出市場は、1995年をピークに、2006年までに年率平均4%のペースで減少を続けています(註1)。住宅市場(新設住宅着工戸数 全国)が、1998年度に163万戸でピークを迎えた以降減少しているのと(註2)ほぼ同様の傾向です。一方で、市中銀行の住宅ローン貸出金額は、同期間においても微増傾向を維持しており、市中銀行の貸出競争の激化が進んでいることが窺えます。

かような状況下で、住宅金融公庫の貸出債権延滞率を確認すると、公庫債権の延滞率は上昇傾向にあり、今後、市中銀行の貸出延滞率の上昇も懸念され、ローン審査精度の向上をはかるための一方策を提言するのが本資料の目的です。


図1



(2)審査精度向上の要請に対応する施策領域

審査精度を向上させるためには以下のような施策領域が考えられますが、従来から求められている審査結果の回答スピードを維持しつつ審査精度向上を達成するには、取り組み可能な施策は限定されると考えます。

a.スコアリングモデルの精度向上

銀行におけるローン審査領域にスコアリングモデルの使用が一般的となっており(註3)、モデルの精度を向上させるべくモデルの改定を行うという方法がまず考えられます。しかし、スコアリングモデルにはその性質から、審査観点が漏れる可能性があり(詳細後述)、審査精度の向上には限界があります。 また、現行のモデルを導入してからまだ5年程度しか経過しておらず、現行モデルで審査した案件でのデフォルト数がまだ僅少であるケースがほとんどの銀行の現状です。そのため現実問題としてスコアリングモデルの改定による審査精度の向上は選択できません。また、導入後やっと慣れてきたスコアリングモデルに変更を加えることに対する審査担当者からの難色の声も聞こえます。

 

b.人的審査による精度向上

人的審査による精度の向上には、単純に人員を増強して人が審査する範囲・案件を拡大する方法や、マニュアルやナレッジデータベースの共有などで人的審査の質を向上させる方法などが考えられます。しかし、審査担当者の人員増強については現在の経営環境下で人を増やすことは難しく、ナレッジなどによる質の向上もすでに実施しているのが実態と思われます。特に、人による審査による施策では従来から求められている審査結果回答スピードという要請に応えられません。

c.スコアリングモデル以外の方法による、データを活用した審査精度向上策

以上から、審査回答のスピードを維持しつつ審査精度の向上を図るためには、スコアリングモデル以外の、データによる改善策が考えられます。ではそもそもスコアリングモデルでカバーできない審査領域が存在するのかという点を確認してみます。

図2



2.スコアリングモデルでカバーできない領域の存在

(1)スコアリングモデルの浸透と限界

スコアリングモデルによるローン審査は、2000年ごろから銀行業界にも広がり、現在はメガバンク・信託銀行、大手地方銀行はもちろん、かなりの採用状況となっています。しかし、スコアリングモデルの結果に対して、かなりの違和感が審査現場からあがっています。これらの違和感は多種多様ですが、審査担当者が利用できるデータについてのスコアリングモデルでの評価が高い、低いあるいは評価ができていない、といったものです。

これら違和感は、スコアリングモデルの、過去のデータをベースに、大数の法則を前提にして、デフォルト/非デフォルトを見分けるための変数を定義するという本来の性格に起因するものです。

a.データの制約による限界

スコアリングモデルを分析するためのデータを収集した段階で、分析用データに含まれていない(銀行として蓄積していなかった)データは、スコアリングモデルには使用できません。例として、「帝国データバンクの評点をスコアリングモデルになぜ使用してないのか」といったケースです。これは、審査時点の申込人の勤務先情報として帝国評点を保存する仕組みになっていなかったため、分析用データとして使用できないことケースです。

b.発生頻度が少ないためにモデル変数として採用されない

スコアリングモデル設計における統計分析では、発生頻度が少ないケースは基本的に無視されます。したがって、審査現場では「このパターン(項目の組み合わせ)は、まずデフォルトする」とのノウハウがあり、かつデータ上もこのパターンがすべてデフォルトとなっていたとしても、該当するケースが少ない場合には、この項目はモデル変数として採用されない場合があります。別の言い方をすると、審査観点が深い場合にはスコアリングモデルでは対応できないことがあります。

c.環境・顧客の変化

モデル分析用データを抽出した対象期間においてはデフォルト傾向があったが、その後の環境や顧客の変化で、現在はデフォルト傾向がなくなっているケース。実際には、過去においてデフォルト傾向があったが今はデフォルト傾向がなくなった変数が、スコアリングモデルのなかで採用されてしまっているケースが多い。

(例 自己資金の有無、純新規取引の申込人)

 

                          図3


          

以上はスコアリングモデルに変数が採用されている/採用されていない、の問題ですが、モデルに採用されている変数であっても、一律のウエイトで評価する(係数は1変数にひとつで定まる)スコアリングモデルの特性から、審査現場の評価と乖離するスコア結果となるケースも発生しています。すなわち変数の効きが弱すぎる、強すぎるといった面での違和感もでています。

 

図4

 

(2)スコアリングモデルの限界が業務に及ぼす影響

スコアリングモデルを中心にした審査において、スコア結果に対する審査実感との乖離が累積し、モデルに対する信頼の低下がみられています。違和感を生じるそれぞれのケースの頻度は少なくとも、そうした事例がいくつものパターンで発生することでモデルへの信頼が悪化していると考えられます。その結果、モデルスコアは、審査判断の中核の指標から、単なる参考指標のひとつという位置づけとなり、人による審査範囲が拡大しています。当初スコアリングモデルを導入する際の目的であった審査スピードの向上、業務効率の改善という目的は達せられないまま過去の課題に逆戻りしているのが現状です。



図5










3.審査ルールによる審査精度向上施策

(1)スコアリングの限界をカバーする審査ルール

審査ルールは、スコアリングモデルが全案件共通の物差しであるのに対し、ある特定の条件下におけるリスク評価の物差しです。審査ルールはデータにもとづいて判断情報を提供するため、システム化によって審査スピードの向上に寄与できるとともに、スコアリングモデルにおけるようなデータの制約が少なく、また、ルール自体は一つ一つが独立したものであり、追加・削除・更新など柔軟な対応が可能という性格をもっています。

図6

(2)審査ルールの構築

審査ルールを収集・構築する方法として、審査担当者にインタビューを実施しノウハウを収集する方法が考えられます。現場で実際に審査している担当者のノウハウは経験に基づいており、実用的かつ有効な審査ルールを構築できると考えられますが、担当者の印象・記憶に左右され審査ルールに偏りが生じることがあり得ます。また、複数の担当者で判断が分かれてしまうことも考えられます。なにより担当者自身が気づいていない有効な審査ルールが膨大なデータの影に隠れているはずです。この膨大なデータの影に隠れている有効な審査ルールを漏れなく収集するために統計手法の力を借りることが必要になります。



図7


4.審査ルールの体系化におけるアソシエーション分析の活用

(1)審査ルール構築における統計分析の活用

審査ルールは、申込データの組み合わせから構成されますが、その組み合わせは膨大になります。例えばパン、牛乳、ハム、果物と4種類の商品が存在するとします。その場合、考えられる組合せとしてパン⇒牛乳、パン⇒ハム、パンと牛乳⇒ハム・・・・と組合せ数は64通りとなります。審査ルールに適用する場合には、性別(2種類)・年代(例えば5種類)・・・とカテゴリの種類が数十、数百種類になるのが通常で、その組合せもきわめて膨大なものとなります。アソシエーション分析は膨大な組み合わせを網羅的に分析することが可能です。また、出力結果にはルールの発生する確率(支持度)、結論部が発生する確率(信頼度)などの指標が含まれていて各ルールに優先順位を付けることが可能です。

 図8

(2)サンプル分析

アソシエーション分析による審査ルール抽出の有効性確認のため、サンプル分析を実施しました。

サンプル分析の目的:

u       スコアリングモデルによるスコアと、アソシエーション分析による審査ルールの関係性の検証

u       スコアリングモデルを仮に作成し、同じデータでアソシエーション分析を実施

分析の前提:

u       サンプルデータ数 デフォルト 約70件 非デフォルト 約7000件 (デフォルト率 約1%)

u       分析に使用したデータ項目 (註4)

スコアリングモデル(ロジスティック回帰モデル)

u       変数の選択は変数増加法(Wald)による

u       スコアは100点満点で算出(後出)

u       下表に、効きの程度(Wald 値)を丸めて表示

u       デフォルトの定義は、代弁案件および延滞3回以上

アソシエーション分析

u       条件部の最大数(変数の組み合わせ)は3つに制限

u       支持度(ケースのカバレッジ)は0.01%以上のルールを出力

u       分析の負担の点で、分析対象変数は、個人属性と勤務先情報のみに限定しました。

(3)サンプル分析結果

スコアリングモデルで使用したデータにアソシエーション分析を実施すると約25,000件のルールが抽出されました。納得性のあるルールをサンプルとして選択したものが以下のルールです。



図9

 

次に、抽出されたルールを分析データに適用し、スコアリングモデルのスコアとルールの評価(信頼度)の散布図を作成し関係性を確認したものが図10です。

図10の散布図から、スコアリングモデルのスコアは高い(デフォルト率は低い)が、審査ルールの評価ではデフォルト率の高い案件が存在することが確認できます。

スコアリングモデルは統計モデルであり、その説明変数には、ある程度のデータ件数が求められます。そのため、発生頻度の少ないデータは評価されません。一方、アソシエーション分析によるルールは単純な事象の組合せのため、データの発生頻度が少ないルールも抽出可能であり、リスク評価の観点漏れを防ぐことができます。


図10

さらに散布図の各案件をデフォルト/非デフォルト別に表示して確認したものが図11です。スコアリングモデルのスコアが高い層にもデフォルト案件が存在していることが分かります。これらのデフォルト案件は審査ルールを適用することによりリスク案件として見極めできる可能性があります。なお図11でWと表示している非デフォルト案件については、デフォルト予備軍の可能性も考えられます。


図11

 

図12は、スコアリングモデルによって高得点となっている案件でルールに該当する案件情報を具体的な事例です。この案件は、年収が標準的(750万円)で返済比率も低く、また勤続年数も長くスコアリングモデルの結果スコアは70点と相応のスコア(リスク小)となっています。

ただし、アソシエーション分析の結果では、「借家に10年以上居住し、自己資金が0円の案件」という高いデフォルト率のルールに該当します。借家に長期間居住しているにもかかわらず自己資金を貯蓄できていない(お金を浪費している?)申込人という仮説がなりたちます。

このようなルールは発生頻度が低いためスコアリングモデルの評価に反映されません。しかし審査ルールの適用結果から判断するとデフォルト率が高く(6.2%)、要注意の案件との見方になります。



図1

 







5.審査ルールの業務への適用

(1)審査ルールを取り込んだ業務の流れ

以上のような審査ルールを審査業務に適用するには、審査担当者の手元にルール集をおいて逐一参照するという最も簡便な方法や、審査システムに追加機能として搭載しシステム上でチェック、アラーム出力する方法などいくつかの適用方法があります。チェック漏れの防止、業務処理スピードの観点からはシステムに搭載することが必要で、ルールベースといわれるエンジン(システム)を活用して、追加・修正・検証の確実性を向上することも選択肢としては考えられます。

ルールベースのシステム化により、スコアリングモデルに対する違和感への解消策を取り込み、自動審査領域を拡大させることが可能となります。

図1


 

 

(2)審査ルールとスコアリングモデルの統合

審査ルールを業務に取り込む形態としては、ルールに該当した場合にシステム上アラームを出して審査担当者に知らせる、という方法も考えられますが、自動化処理を拡大するためには、審査ルールとスコアリング結果とのマトリクスを活用するなどの方法があります。

アソシエーション分析の結果からの各ルールのデフォルト率での評価に、審査担当者のノウハウを付加し、デフォルト傾向/非デフォルト傾向の重み付けをし、スコアリング結果とのマトリクスとして組み込むことで、スコアリング結果とのバランスをとった自動承認/自動否認領域の設定が可能です。



図1

 

6.審査ルール構築のための作業内容例

以下は、弊社で実施する審査ルール体系化のためのプロジェクトの流れです。審査ルールの抽出は、アソシエーション分析よるデータからの抽出だけでなく、現行の審査業務(審査ノウハウ)からインタビューなどによる抽出、の2系統によることで、審査担当者のナレッジも取り入れたルールの構築を行います。

図1


7.おわりに

本稿で取り上げた「ローン審査における審査ルールの活用」というビジネス課題、あるいは統計手法としてのアソシエーション分析はいずれもあたらしいテーマ・技術ではないが、どの課題にどういう技術を適用・応用するかが重要なことだと感じています。本稿であげた審査ルールについても決定木分析などの方法で導出する方法も考えられますが、膨大な数の決定木を作成・検討することはかなり困難な作業であり、手法としてはアソシエーション分析が適しているという点がポイントです。

弊社では、金融業界はじめ各業界におけるビジネス課題に対して、弊社BIチームのコンピテンシーである統計技術を活用した解決方法を日々検討しています。本稿テーマをはじめとし、関係各位のご意見をいただければ幸いです。

 

補足資料

アソシエーション分析説明資料 アプリオリアルゴリズムの概要 (註5)

図1



1.住宅金融支援機構資料から作成 http://www.jhf.go.jp/research/zandaka/index.html

2.建築着工統計調査

(国土交通省総合政策局情報管理部建設統計室 平成20年4月30日公表)

3.住宅ローンのリスク管理〜金融機関におけるリスク管理手法の現状〜 

(日本銀行金融機構局2007年3月)

           4.スコアリング分析、アソシエーション分析に使用した変数概要

l         スコアリングモデル(ロジスティック回帰モデル)で使用した変数(変数名はカテゴリ表現に変更してあります)



             

                           

l         アソシエーション分析で使用した変数(基本的な変数に限定)



                  
 

              5.アプリオリ

アプリオリ(Apriori)は1994年にIBMアルマデン研究所のR.Agrawalによって提案された相関ルール抽出アルゴリズム


参考文献

RjpWiki

http://www.okada.jp.org/RWiki/?RjpWiki

Welcome to Mingzhe Jin Home Page

http://www1.doshisha.ac.jp/~mjin/R/index.html

アプリオリアルゴリズム

http://lab.mgmt.waseda.ac.jp/unix/datamining/datamining6.htm

IT情報マネジメント アソシエーション分析

http://www.atmarkit.co.jp/aig/04biz/associationanalysis.html


岡田昌史 [2004]『The R Book データ解析環境Rの活用事例集』九天社

船尾暢男 [2005]『The R Tips データ解析環境Rの基本技・グラフィックス活用集』九天社


ビュルガーコンサルティング株式会社

2004年10月、日本アイ・ビー・エムのコンサルタント経験者が中心になって設立。統計解析技術を活用した
BIコンサルティングのほか、クレジットカード業務コンサルティング、ITコンサルティングなどのサービスを提供。

 東京都中央区日本橋人形町3−7−6 FSK人形町ビル8階
 http://www.buerger-consulting.com/

 執筆者略歴

 丸谷 淳(まるたに あつし)
  1987年 日本長期信用銀行入行
  1998年 日本アイ・ビー・エム(鞄社
  2008年 ビュルガーコンサルティング鞄社

 山下 諭史(やました さとし)
  2000年 エー・アンド・アイ システム鞄社
  2004年 ビュルガーコンサルティング鞄社