◇ これからの地銀経営戦略を考える ◇

〜新たな銀行ビジネスモデルへの挑戦〜


当論文は、長く地域金融機関の経営と産業制度の調査に携わってきた専門家によるものである。バブル崩壊から10年以上を経て、大手都市銀行の再編とBS調整が終わりつつあるが、次の段階として地方銀行の再生が期待されている。地域から逃れることのできない、地方銀行にとっては、財務健全化だけでは実ある再生は不可能である。筆者は、幅広い知見に基づいて、大所高所から地銀経営の方向性を述べている。一見、アカデミズムに寄っているように思えるだろうが、規制当局や地銀経営者の特性、地銀の組織文化などの実状を踏まえて考えを紹介している。



 過去に類例をみない超低金利が続く中で地方銀行の収益力は弱体化している。銀行業にとって利益の源泉であった預貸業務の収益が低下しているのは、元々、貸出金利が相対的に低水準であったところに、不良債権処理が重なったことが要因だろう。貸出業務の収益改善に向けて、ようやく地銀でも行内格付けに基づく貸出金利を徴求する動きが拡大している。この動きは、一過性のものではなく、時代の変化を背景にした構造的な変化を反映したものだが、進捗が見られない。今後、地方銀行が収益を改善するには、これまでのビジネスモデルを見直し,新たなモデルに挑戦しなければ収益問題についての根本的な解決には至らない。

1.経営環境の変化

 金融サービスのボーダレス化

新たなビジネスモデルを構築する際には、企業が存立している時代変化についての認識が欠かせない。金融サービスの面から時代の変化をみたときに、特筆すべきは金融サービスのボーダレス化である。金融サービスのボーダレス化は、経済の成熟化やITの革新によるネットワーク技術の進展等によりもたらされた。ネットワーク技術が進展した結果、既存の業種・業態の壁が取り払わられ、以前では想像もつかなかった競争関係が出現している。銀行・証券・保険等の既存金融業におけるボーダレス化だけでなく、銀行業と異業種,例えば流通業との間にもボーダレス化が進んでいるのだ。

  金融機関間のボーダレス化は、日本版ビッグバンを契機に広がり始めた。金融機関間のボーダレス化により、金融の証券化が進行、間接金融と直接金融の境が不透明となるだけでなく、銀行業務と証券業務、信託業務さらには保険業務相互間の垣根が一層低くなった。こうした中で、それぞれの金融機関は経済社会における自社の強みと弱みを冷静に分析しながら、自社が提供すべき金融サービスの種類とサービスを提供する顧客を選択することになる。その一方、顧客はペイオフの解禁を境に、金融サービスを受けるべき金融機関を厳しく選択し始めた。

 変化が逸早く現れたのは、グローバルな市場取引に近接しているホールセールの分野である。ホールセール分野では、顧客を絞り込み、高度な証券化・デリバティブ技術を駆使した専門的な金融サービスを提供する投資銀行のような新たな専門金融機関が登場した。この新たな専門金融機関の性格は、現行の銀行、証券、信託、保険等の枠を超え、全ての金融サービスを包括的に提供している。また都市銀行は、グループの信託銀行や証券会社を傘下に置いた銀行金融持株会社を活用し、自社の経営戦略に適した経営戦略を展開している。彼らは戦略を形成する過程で、各種の金融業務を根本から見直し、業務プロセス毎にその特性や採算性を考慮して業務をアンバンドル(分解)し、自前で賄うには採算が合わない業務については他の専門機関と提携するか、業務を専門機関に委託する(アウトソーシング)等の対応を図るのが普通となっている。

流通業の金融サービス

第2のボーダレス化は、銀行業と異業種との間のボーダレス化である。具体的には流通業の金融サービスへの進出がそれに当る。全国展開している大型小売業は、数多くの店舗を持ち、商品・サービスの取引にかかる情報仲介、情報処理に関するネットワーク機能を有している。また大型小売業や運送業にとっては、既にある営業活動のプラットフォームを基盤に、資金決済に関する情報仲介を比較的低コストで行うことはさほど難しいことではない。既にコンビニエンスストアは、各種の公共料金の収納代行サービスを提供しているが、このサービスはコンビニエンスストアが持っているネットワークを活用し、流通と決済のシステムをリンクさせたものである。イトーヨーカ堂は、この考え方に立ってアイワイバンク銀行を設立し、独自のATMのネットワークを構築、銀行業に参入した。またヤマト運輸、佐川急便等の宅配便業者は、通販業者の委託を受けて、注文主に物品を引き渡す際、クレジットカードにより代金を決済するサービスを開始している。IT革新により過去には想像できなかった銀行サービスが銀行以外の場所でも可能となったのである。

流通業やインターネット関連企業は、独自の顧客基盤を利用し、顧客に各種の情報を提供することを通じて新たな需要を掘り起こす努力を行ない、実績を挙げている。彼らにとって自社の情報活動の一部に銀行サービスである決済機能を結び付けることは比較的容易である。決済サービスが付け加わることにより流通業者は顧客基盤をさらに充実・拡大させ、新たな収益機会を追求できる態勢を整備することになる。

国際的にみると、流通業が逸早く金融サービスに進出し、成果を収めたのは英国であった。中でも大手スーパーのテスコは、1997年にスコットランドの地方銀行であるロイヤルバンク・オブ・スコットランド(RBS)と共同出資でテスコ・パースナル・ファイナンス(TPF)を設立、本格的な銀行サービスを提供し始めた。同社は、「コーンフレークを買いにきた顧客にあらゆる金融サービスを好条件で提供する」ことを標榜し、預貸業務に加えて保険販売やクレジットカード業務まで幅広く取り扱っている。同社は、テスコの集客力を生かして業績を順調に伸ばし、開業3年目の2000年12月期には単年度黒字に転換、2002年には顧客口座数250万件以上、預金残高17億ポンド、総貸出し預金を上回る20億ポンドに達し、累積損失も一層できる見通しとなっている。

同社が早期に黒字転換できる見通しとなったのは、共同出資先であるRBSの支援による機動的な効率経営が裏付けとなっている。同社は、コールセンターなどの間接部門をRBSに全面的に外注して間接費を削減し、その分ローン金利を低めに設定しているとしている。保険商品も損害保険はRBSの子会社から,生命保険はRBSの親密先であるCGUNから調達しており、既存の金融業と流通業のアライアンスが成果を挙げた例である。

インターネット銀行

日本で新しく設立されたソニー銀行、eバンク銀行等のインターネット銀行、先のアイワイバンク銀行等は、決済機能を主たる業務とし、資金仲介業務については積極的には行わない機能を限定した銀行である。欧米では日本に先駆けて1990年代半ばにはインターネット銀行が設立されていた。米国のテレバンク(1996年にメトロポリタン貯蓄銀行からテレバンクに名称を変更後、1997年にインターネット・バンキングを中心にした銀行に転換、2000年にeトレードの子会社となる)や英国のエッグ(プルーデンシャル保険が1998年に創設した銀行子会社)が知られている。また既存の銀行も、既往の店舗に併せてインターネット・バンキングサービスを提供するようになっている(1999年第三四半期時点で、国法銀行2517行のうち464行)。インターネット銀行に対して通貨当局は、「インターネット・バンキングを提供することにより、店舗運営経費等の固定費の削減に成功している」と評価している。

もっとも、米国のネット銀行が全て順調に業績をあげているわけではない。ネット銀行が最初に登場した米国ではネット専用銀行の破綻が発生している。米連邦政府認可の銀行監督機関である米通貨監督局(OCC)は、2002年2月、インターネット専業銀行のネクストバンク(アリゾナ州)について、多額の不良債権を抱え経営再建は困難と判断し、銀行閉鎖の措置を取り、預金者に対し10万ドル(約1325万円)を上限とする預金保険の払い戻しを、小切手を送付する方法で閉鎖作業を開始した。全米でネット専業銀行が経営破たんし、閉鎖されたのは初めてだ。同行は資産7億ドル。支店はなく、最低10万ドルの大口預金を集め、インターネットを通じて募った顧客相手のクレジットカード事業に投資していたが、信用の低い顧客が当初の予想に比べ多く集まり、不良債権が増加したことが経営破綻の要因だ。

 また、スーパーリージョナル・バンクのバンク・ワンは、同行が2年前に開設したインターネット上の無店舗銀行であるウィングスパン・バンクを2001年秋に閉鎖している。当初、ウィングスパン・バンクは大手行が設立した本格的なネット取引専用銀行として注目を集めたが、ネットブームが急速に冷え込む中で収益が悪化、売却先を探したものの見つからず、閉鎖を余儀なくさせられたのが実態だ。同行が破綻したのは、@ネット銀行が予想以上に経費を食い、「ネット銀行は安上がり」とういうのは幻想に過ぎなかったこと、Aウィングスパンとは別に開設した同行のウェブサイト「バンクワン・ドット・コム」の利用者の方が増加するなど、既存サイトとの競争に敗れたことが要因と伝えられる。他の米国ネット銀行の中にも苦戦を強いられているところが少なくなく、生き残りには思い切った転換が必要とみられるが、こうした米国インターネット銀行の経験を日本でどう活かすか問われるところだろう。

銀行の経済的機能

銀行業が新たなビジネスモデルを考える時、自分達に求められる経済的機能を認識する必要である。改めていう必要はないが、銀行業は決済手段の提供と資金仲介、貯蓄手段の提供という業務を同時に行う金融機関であり、競合する他の金融機関や銀行間の為替システム、中央銀行等を含めた金融システムを形成している。マートンとボディは、こうした銀行機能を現代的な目で見直し、金融システムの究極的な機能を「不確実性がある下で、経済的資源の距離及び時間を超えた配分・利用を促進すること」と再定義した。彼らによると、その資源配分という最も結合された機能の下位に次の6つの基礎的機能が存在する。

@    取引を円滑にする決済方法の提供

A    資源をプール化したり、小口化したりする仕組みの提供

B    異なる時間、地点、そして産業の間で経済資源を移転する方法の提供

C    不確実性に対処し、リスクを管理する方法の提供

D    経済の各分野における分散的な意思決定の調整を助ける価格などの情報の提供

E    情報の非対称性に伴うインセンティブ上の問題に対処する方法の提供

マートンとボディに従うと、銀行業は、@決済機能、A異時点間の資源配分機能、B確定利付きという形で契約した借り手へのデフォルトリスクに対する保険の販売機能、C家計の富のプール化機能の4つを担っていることになる。銀行業は、これらの機能を同時に提供することで、範囲の経済(スコープ・オブ・エコノミー)を発揮し、社会的なコストを抑える機能を果たしているわけだ。例えば、銀行業は決済機能の提供により獲得できる企業の資金繰りに関する情報を通じて企業経営のモニタリングを行い、企業に内在するリスク情報だけでなく、企業が必要とする流動性に対するニーズを客観的に把握することが可能となる。これらの企業経営に関するリスクや流動性ニーズの把握等の情報を個別に収集・分析するとすれば、膨大な時間と経費が必要となる。だが銀行は、上記の機能を一括して遂行することを通じて、低コストにこれを実現することが出来るとされてきた。

2.地銀が挑戦すべき新たなビジネスモデル

では、こうした金融サービス業を取り巻く環境の変化と銀行業に期待される社会的機能を踏まえて、地方銀行が挑戦すべき新たなビジネスモデルとはどのようなものか。筆者の考えを紹介しよう。まず、従来の接近方法に準拠して個人分野、企業分野毎に考え方を整理すると、各地銀が置かれた立地条件、競争環境、組織能力等により若干の差はあるものの、新たなビジネスモデルの大枠は次のようなものだ。

個人向けローンビジネス

個人分野の新ビジネスモデルは、住宅ローンを中心にこれまで消費者金融会社が提供してきたローンも取り込んだローンビジネスとプライベートバンキングを柱とした資産管理ビジネスに旧来からの決済ビジネスを組み合わせたハイブリッド型になるだろう。

個人向けローンビジネスについてみると、目下、地銀各行は個人向け貸出を積極化している。これは、@企業向け貸出が伸び悩んでいること、A住宅金融公庫の融資業務廃止が打ち出されたことが大きな背景だ。よく言われるように、米国銀行の個人向けが貸出残高の30%以上を占めていることからすると、日本の地銀が個人向け貸出を増加させる余地は未だ大きい。

問題は、住宅ローン以外のいわゆるフリーローンである。大手行は消費者金融会社と提携した消費者金融会社を設立して個人向けのフリーローンを推進している。大手行では現在のところ、UFJのモビット、SMBCのアットローンが先行している。UFJのモビットは、現在の契約者が10万人弱、半期で約3万人増加し、今年度上期中に残高が850億円を越えて単年度黒字に転換した。では地銀はどうするのか。すでに多くの銀行が信販会社の保証を受けたフリーローンを取扱っているが、大手銀行のように別組織で取り組んでいる銀行は少ない。消費者金融については、顧客対応が銀行とは大きく違う。地銀はどのようにして消費者金融特有の顧客対応を身に付けるのか。これまでのように、大手銀行からノウハウの提供を受けることは難しい。消費者金融会社と提携するか、独自の経験を積み重ねてノウハウを開発するか、何れかの方策を選択する必要があろう。

個人向け産管理ビジネス

プライベートバンキングを柱にした資産管理ビジネスは、@規制緩和により取扱いが始まった投信、年金型生保を軸にした長期の金融資産形成と、A顧客の日常生活にかかる資金管理で構成される。対象顧客は、すでに増大し始めている中高年・中流クラスだ。

この先、団塊の世代が定年退職を始める2007年以降は、日本でもプライベートバンキングが改めて注目されるだろう。プライベートバンキングというと、とかく大金持ち向けの特別な金融サービスというイメージがあるが、日本のような中産階級が社会の太宗を占めるような国では、英米のようなプライベートバンキングは育たない。むしろ小金持ちを対象にした、リテールバンキングの範疇で考える方が現実的だろう。

その点、ドイツの金融機関が取り組んでいるプライベートバンキングは日本の地銀にとっても興味深いものがある。それはドイツのリテール金融機関が多くが顧客との対面コミュニケーションを重視するプライベートバンキング業務に注力し、店舗の合理化よりも専門スタッフによる店舗のバックアップ体制の構築に力を入れているからだ。

例えば、ミュンヘンに本拠を置くバイエリッシェ・フェラインス・バンクでは、顧客サービスの充実を図るため、国際業務、証券業務等、一部の本部機能を備えた幹事店舗の専門担当者(プライベートバンキング、リテールバンキング、法人取引の3種類)が各店舗を指導、管理、支援する体制の整備を進めている。プライベートバンキングについては、各営業店にスタッフが常駐し、顧客との日常的な接触を通じて信頼関係を構築し、成果をあげている。またフランクフルトのフランクフルター・シュパルカッセでは、1996年より、営業エリアを半径30キロ程度の5つの地域マーケットに分けて、それぞれにエリアマネジャーを配している。プライベートバンキングについては、16のプライベートバンキングサービスセンター(Betreuungscenter)に常駐する専担者(Individualkundenberater)が、他店舗に出向いてサービスを行っている。

今後、日本でもプライベートバンキングが議論される際には、経営の効率化とサービス充実という二律背反した問題に直面するが、バイエリッシェ・フェラインス・バンクとフランクフルター・シュパルカッセの対応は組織体制を考える上で参考となろう。

リレーションシップの強化を通じた中小企業取引

中小企業向け貸出は、地方銀行の主戦場と言っても過言でない。しかし地方銀行の中小企業貸出は、各行とも過去のボリューム経営の延長から薄利多売に過ぎているのが実情である。その結果、各行とも取引先の中小企業に関する情報収集・管理が疎かになり、行員の企業審査能力を阻害させることに繋がった。金融機関経営者に対するアンケート調査をみると経営者が考える課題として行員の融資能力が常に上位に挙げられているが、支店長クラスにも企業審査については苦手な向きが存在することを考えると、融資能力の向上は難しい問題だ。これは過去の不動産担保貸出の弊害から、企業経営に対する審査マインドが組織的に蓄積されず、銀行全体も信用リスクを見極める能力が磨かれていないことが一番の原因だろう。地方銀行がベンチャー等の新興企業に対して過度に消極的なのもこれから発している。

 新しいビジネスモデルにおいても貸出は銀行業の中心的な業務であり続けるが、その有り様は従来とは根本的に異なる。理論的には、先に示した銀行の社会的機能のうち、Eの情報の非対称性に伴うインセンティブ上の問題に繋がる考え方で、近年発達している情報理論を踏まえて、銀行業には貸出にかかる取引先のモニタリング機能があるとの考え方に立脚している。

この考え方によると、地方銀行は貸出先との地理的・感情的な近接性を生かし、日常の接触を通じたモニタリングを行い、情報生産に必要な取引費用の節約を図ることが期待される。協同組織金融機関である信用金庫や信用組合の場合は、会員・組合員を核にしたより緊密なネットワークをもつことにより、貸出に伴う信用リスクを低減し、貸出の裾野を拡大することが可能となる。

 しかし、地方銀行を含めこれまで日本の金融機関が行ってきた貸出審査は、金融仲介機関として期待される役割を十分果たしてきたか疑問だ。金融機関は、貸出に伴う信用リスクのヘッジとして、土地等の不動産を担保として企業に提供させ、企業が事業に失敗しても担保を処分することにより債権を回収するのが通例である。経営内容が良く、事業の将来性があったとしても、担保が無いと貸出を実行するのは現実的には困難だ。特に、企業に社会的な信用が乏しい中小企業に対してはその傾向が大きく、逆に担保さえあれば資金の使途がどのようなものであっても貸出に応じる傾向がある。金融仲介機関に期待される審査機能が果たされていない証拠だろう。

 借手の側である企業も、経営環境の変化に無頓着な向きも、担保余力さえあれば、自社の能力を超えるような事業に進出しても金融機関から資金を調達することができ、株式や不動産投資への投機的な資金についても比較的安易に借入が可能であった。日本的な経営社会システムの中で土地に依存する価値観が双方に存在し、その結果、日本の経済社会にリスク感覚や企業の社会的な責任意識が醸成されていない。だが、経済のグローバル化が進み、時価会計の導入を目前にした今、貸し手・借り手双方の発想転換が迫られているのである。

この動きを金融サービスの面からみると、金融機関による経営支援業務(ソリューションビジネス)に繋がる問題である。すでにメガバンクは、企業のソリューションニーズに対して本部の専門家を地域営業法人本部に常駐させ、法人営業部をサポートする体制を組んでいる。本部に常駐する専門家は、デリバティブや市場取引、エレクトロニックバンキング等、地銀でも対応しているサービスだけでなく、M&A、MBOを行う部隊やシンジケーション、株式公開支援など、様々な分野のスペシャリストで構成されている。今後、メガバンクはもう一歩進んで、中小企業、ベンチャー企業等、内部スタッフが希薄な企業にとって負担となっている管理業務のうち財務会計事務の受託が有望な業務分野とするだろう。これに地方銀行が対抗していくためには、地銀が培った顧客との信頼関係をより一層強化したリレーションシップ貸出を新たなビジネスモデルと考えては如何だろう。

 リレーションシップ貸出については明確な定義は存在しないが、取引の期間が長く、各種のサービスを集中する企業について、金融機関側に情報の非対象性が少なくなり、結果として企業、金融機関の双方に経済的なメリットを前提にしたものである。中小企業金融においてリレーションシップが重視される背景には、中小企業が一般的に大企業よりもリスクが大きく、情報が十分に開示されていないためにモニタリング・コストが高くなることが作用している。企業との間にリレーションシップを形成できれば内部情報へのアクセスが容易になることで審査にかかる金銭的・時間的コストを軽減できると期待した考え方である。中小企業側のメリットとしては、金融機関とのリレーションシップにより、資金調達のアベイラビリティが高まるとともに、金融機関が審査に関する時間を節減することを通じて実質的な借入金利が相対的に有利となる可能性が期待される。

問題は、こうしたリレーションシップ貸出のもたらす利益が金融機関間の競争激化やイノベーションの進展によってどう変化するかであろう。イノベーションの進展によって信用リスクの定量的評価やクレジットスコアリングによる事前審査が拡大すれば、ノンバンクを含めた競争はさらに激化し、金利には低下圧力が働くだろう。そうなると金融機関は、貸出利鞘の縮小をカバーするために新たな収益源を確保しようと行動する。金融機関は、情報提供や相談業務などの付加価値サービスの質が差別化の重要な手段となり、中小企業金融はオーナーを対象にしたプライベートバンキングに近い性格に転換していくだろう。

3.新たなビジネスモデルへの課題

リレーションシップ貸出という新たなビジネスモデルの構築には他にも幾つかの課題がある。中でも特に金利はリスクと反比例することを行員・顧客双方に徹底する必要がある。とりわけ中小企業向け貸出については、政府系金融機関が設定している金利について経済的な根拠を持つものではなく、社会政策的な判断で設定された非合理な金利であることを企業経営者に認識させる努力を銀行側が行うべきだ。

また新たなビジネスモデルでは、「サービスはタダ」という社会通念を突破する斬新な考え方が求められる。とりわけ決済サービスについては、資金の支払側・資金の収納側双方にとって、利便性だけでなくリスクを大きく削減している事実を認識させる必要だ。よく知られているように、欧米では決済口座について口座維持手数料が徴求されるのが普通で、米国では一部の銀行ではあるが窓口利用料まで徴求している。国内でも、シティ・バンクが普通預金について最低預入金額と口座維持手数料を設定しており、邦銀が同手数料を導入するのはきっかけ待ちの状態だろう。

日銀のゼロ金利政策により、普通預金金利も実質ゼロとなったのを機会に、普通預金についての認識を変更すべきではないだろうか。普通預金が決済専用の預金で、しかも総合口座等の各種機能サービスが付帯し、顧客にとって利便性の高い、有利な商品という考え方に転換するのである。先行き再び金利が上昇すると、こうした発想の転換が難しくなる。現在は普通預金の口座維持手数料を徴求するチャンスである。このチャンスを逃すと、銀行が行っている決済サービスの対価を徴求することはますます難しくなろう。

新しい時代に突入し、地銀を含めた既存銀行は、機能の整備を進めるため組織の再編成を進めている。組織の再編成は、欧米の銀行で行われているように、持株会社の下で総合金融サービスを提供するよう、銀行だけでなく、証券、保険等の金融機能を取り込む形をとるのが普通である。だが日本における持株会社の成立は、不良債権処理を契機にした銀行同士の経営統合という色彩が強く、機能整備の側面が見失われ勝ちである。今後、不良債権処理どのように進むかは、予断を許さない状況が続いているが、各金融グループが目指す新たな成長は、機能整備による新たなビジネスモデルの成否に懸かっていると言えよう。

新たなビジネスモデルを成功に導くためには、組織風土の変革が不可欠である。規制緩和や技術革新により新たなビジネスチャンスが広がってきているが、多くの地銀は経営資源や営業基盤の制約だけでなく、モノカルチャー的な組織風土等から、せっかくのチャンスを生かし切れていないのが実情だろう。組織風土の変革が無ければ新たな成長は困難だ。逆に言うと、今後、成長する金融機関は組織風土の変革に成功した先に限られるということになろう。


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