◇ 銀行代理店制度の戦略的活用 ◇

― 地域金融機関の視点より ―


このレポートは、地域金融研究所の月刊誌『New Finance』平成1712月号への寄稿文に加筆したものです。

注目を浴びている銀行代理店制度に関しては、金融サービスを根本から変革する契機とする考えがある一方で、ビジネス・モデルが成立しないと消極的な評価もあります。筆者は、積極的に評価する立場をとっていますが、成功するためには長期的戦略に基づきバランスのとれたチャネル戦略として着実に実行していくことが必要と考えています。

なお、当レポート内で「戦略」「ビジネス・モデル」という耳慣れてはいるものの定義が定まっていない言葉を使っていますが、ここでの定義は以下のものとしてご一読願います

戦略:市場や競争条件を考慮しつつ選択した事業目標に対し、人的資源、物的資源、資金的資源、知的・情報資源を適切 な時間軸に従って配分すること。

ビジネス・モデル:対象とする事業分野に投入する商品・サービスの開発から販売・納入・保守・廃止撤退に至るライフ において、関連するプロバイダーが提供する機能・コストと期待収益を最適化し、顧客の享受する利点を最大化する係を体系化すること。


銀行法改正によって銀行代理店制度の大幅な規制緩和が実現する。平成18年4月からは、一般事業会社が銀行の代理店となり、預金・為替・融資の銀行固有業務や付随業務を兼業で実施できるようになる。金融改革プログラムの一環として既に信託代理や証券仲介などを解放されており、今回の銀行仲介業の導入によって製販分離のための制度改革が仕上がると、金融庁は考えている。対面チャネルの多様化により、顧客利便の大幅向上を期待しているようだ。

今回の銀行代理業解放は、代理店規制緩和を要求してきた銀行業界の予想を超える緩和策である。参入こそ認可制であるが、資本条件、人的条件ともに比較的緩やかであり、兼業・乗合が認められる予定である。保険代理店と異なり、復代理店も委託元銀行の同意を前提に可能となる。行為規制も、受託財産の分別管理や顧客情報管理の徹底(銀行業務によって得られる顧客情報を代理店の本業に使用することの禁止等)、情実融資や利益相反融資の禁止等、極めて常識的な規制に止まることが予想されている。

具体的な適用方法は政省令や金融庁ガイドラインの内容を見てからとなろうが、銀行界には大きな期待のある半面、効果的な展開方法を見出せずに戸惑う声もある。地域金融機関からは、大手銀行に有利な制度改正であり、地域金融機関の存続を脅かしかねないとの意見もある。代理店となる立場の事業会社にとって参入を急ぐ理由はなく、市場や金融界の動きを見ながら判断するか、自社とは無関係という考えが多いのも事実である。

銀行代理店制度を、事業会社による銀行商品の窓口販売という認識で捉えては、大きな流れを逸することになろう。わが国の社会環境、経済環境は急速に変化しており、それを支える金融市場も大幅な改革が要求されている。金融制度改革がこうした環境要因の変化によって進められていることを忘れてはならない。金融機関が生き残るだけでなく、事業を発展させるためには大きな環境変化に戦略的に対応することが不可欠であり、その一環としてチャネル戦略やサービス戦略も変革を必要としている。そこに代理店制度を戦略的に活用するポイントがある筈である。広範な制度改革に受動的かつ単発的に対応していては、単なる消耗に終わってしまう。市場環境を前提とした自行ビジネスの大きな絵を描くことが求められる。

銀行の経営環境と想定される事業戦略

少子高齢化、行政構造改革、経済のグローバル化・サービス産業化など大きな変化要因とともに、資金循環が根本的に変わりつつある。個人の余剰資金を企業と公的部門が借用するという単純な図式は終わった。資産があり貯蓄性向も高いシルバー層から公的部門や中小企業、そして30〜40才代の家計に資金を回転させる時代に入った。わが国全体で保有する6千兆円近い金融資産や2千兆円前後とされる土地や生産設備など合計8千兆円の資産と5千3百兆円の負債をバランシングし、効率的に運用する機能の再構築が進められている。不良債権処理に目処がたち、経済が成長軌道に戻りつつある今日、金融機関がバブル前のビジネス・モデルに回帰したのでは、その存在意義を失することになる。金融改革プログラムの背景を正確に認識することで、制度改正を活用する戦略が立案できる。

金融サービス市場は、確実に市場型化しているとともに、新規参入や持株会社化などで機能のアンバンドリングと水平構造化が進んでいる。そうした中で、郵貯と簡保が分社民営化され民間金融機関と同じ競争の土俵に上がってくる。大手銀行も三大メガ・バンクにグループ化され、親密地銀を含めた業界再編成の動きも急である。預貸率が下方硬直した状況で、有価証券運用や国際金融に頼れない地域金融機関としては、存続をかける収益分野は何か?そこでの成功要因は何か?根本的なパラダイム・シフトが要求されている。

結論としてはサービス産業化であり、事業性ローンや個人ローンが収益の柱となろう。預金を集めることを優先する事業モデルは存続しえない。サービス化やローン・ビジネス展開、証券化などに必要な要件は何か?郵貯やメガ・グループなど全国展開の大手と差別化するには何が必要か?収益性と価格競争力を確保するためのコスト構造はいかにあるべきか?金融サービスにおける差別化手段は何か?

代理店チャネルは、デリバリー・コストを低減しながら、域内に高密度な顧客接点を配置し、更には域外展開や海外の商品・サービスとの接点ともなりうる。メガ・バンクが地元スーパーを代理店とした場合、地域の顧客を奪われると危惧する声も聞くが、観念的に大手行と規模の比較をしても意味はない。顧客の側から見たメリットと選択ポイントを考えれば、心配する必要のない地域金融機関が多いはずである。

事業計画に代理店戦略を反映させることが必要

銀行にとって新代理店制度を通じて期待できる効果は以下のようなものであろう。

◇不採算店舗を代理店化して兼業収入により採算化する。或いは、未参入地域に変動コストで参入する。渉外行員を個人 代理店にするのも有効であろう。

◇他行の代理店となって販売手数料等を得る。

◇複数の先進他行の優れた商品を代理販売して、地域への総合金融販売に特化する。

◇事業会社を代理店化することで、その顧客基盤を活用する。

◇全国展開する事業会社やネット企業を代理店化することで遠隔地に拠点展開する。

◇特定顧客層に必要なあらゆる機能(金融以外を含めた)を持つワンストップ・ショップを構築する。

◇事業会社の保有する機能や商品と組み合わせた新しい金融商品・サービスを開発する。(アンテナショップ)

◇特定顧客層に強みを持つ事業会社を代理店化し、そのマーケティング力を学習するとともに、市場情報を早期把握する

 ここで大きな疑問が出てくる。代理店でなく提携でも可能ではないかということである。提携であれば勧誘ができずに紹介・取次ぎにとどまるが、認可を得た代理店であれば代理または媒介(契約締結権はないが販売活動はできる)が可能となるので、実効性に大きな差がある。  

事業会社にとっての銀行代理業

 マスコミでは、大手スーパーやデパートが銀行代理店となるケースが広く取り上げられている。欧米のストア・バンキングをイメージしているのであろう。しかし、生活実感に基づいて考えて、スーパーで利用する金融機能とは何であろう。入出金や送金であれば、ATMで充分である。買物のついでに投信を買うことや住宅ローンを申しこむことが多いかは疑問である。小売業者が大切な売り場面積を割くほどの代理手数料を銀行が払えるだろうか?現在の資産構造からすれば、預金増強は避けたいのが銀行の本音であろう。車ディーラーや住宅販売業者を通じてローン販売という考えもあるようだ。車ディーラーにとっては、グループ金融会社の資金を利用したローン・ビジネスは主要収益源である。それを銀行と折半する必要性はない。住宅ローンにしても、融資条件を代理店が決められれば面白いセールスが可能となるが、定型的ローンでは住宅販売の側面支援に止まる。多くは乗合代理店となって、最も金利が安いか手数料の高いローン商品を奨めることになる。それでは銀行にとって、単なる価格競争となってしまう。

事業会社が銀行代理店となるメリットとしては以下のようなことが考えられる。

    既存拠点を利用して追加投資を抑えながら収益源を多様化する。

    銀行のブランドを利用して自社の信用度を上げる。

    自社の本業と金融機能を組み合わせて、クロスセル・アップセル能力を上げる。

    自社の商流や物流機能に資金流を付加することで、本業のプロセス効率化や付加価値強化を図る。

    商流・物流・資金流の個別情報を蓄積・分析することで、売れ筋・死に筋情報や個客ニーズを把握して競争力強化を図る。(但し、銀行代理業から得た顧客情報の利用については制約が課される。)

こう考えると、事業会社が銀行代理業で単純に利益を上げられるケースは少ないことが理解できよう。旅行代理業界が参入に積極的で、旅行代金の融資やプリペイ・カードの発行、通貨両替などを考えているようである。支払精算やキャンセル時に返金の手間を省く工夫も可能となろう。旅行積立など従来は使途限定のサービスも、預金として流動性を持たせながら優遇金利を付加するかもしれない。富裕層向けや一般個人向けの会員制バーチャル銀行に結びつく可能性もある。そのほかには、DVP(デリバリー・バーサス・ペイメント=納品時即決済)化したい高額取引などでも銀行代理業のニーズが高いと思われる。

大きな課題として、事業会社経営陣の立場からは、自社の社員に銀行員と同じ仕事をさせられるのか、させて良いのかという疑問がある。不正への懸念だけでなく、外部からの防犯も考える必要がある。そもそも、正確な事務処理を行える人材ばかりではない。当然に選抜するが、こうした人材は本業で活躍してもらいたい貴重な資源である。代理店の事務を徹底的に簡略化し、現金には一切触れないような業務プロセスを構築するしかあるまい。意外と適用可能性の高い分野として、EC(エレクトロニック・コマース)がある。取引を全自動化しようとする際にネックとなるのが決済と入出金管理だからである。エスクローを含めた融資機能を組みこむことも可能となる。信託・証券化と組み合わせれば、面白いビジネス・モデルが考え出せよう。

代理店導入にあたっての考慮点

銀行員以外の職種の人々から見える銀行業務とは、窓口処理とATMだけである。一部に融資を受ける際の手続きを経験している人もいようが、複雑膨大な銀行事務を認識している人は数少ない。また、その事務が法律を始めとした様々な規程で縛られていることも知らないだろう。大量の現金を扱う経験も殆どない。つまり、銀行は日常的に接している反面で、具体的な業務をイメージできない業種だということを前提に考える必要がある。

代理店導入にあたっては、以下のような多くの課題がある。該当する課題を着実に解決しておかないと成功の可能性が低いというより、行政処分の対象となるだけである。

    積極的に営業をしてもらうためのインセンティブと支援体制の整備

    複雑な法制度に順じつつ、単純化した業務プロセスとルール

    代理店の本業を支援する商品パッケージ化と簡単なリパッケージ手順

    公平かつ透明性の高い手数料配分体系

    事務処理研修態勢とリアルタイム支援体制の整備

    第三者検証可能なコンプライアンス管理と情報機密管理

    拠点変更や廃止に備えて、サービス継続性を担保する仕組みの構築、及び、撤退手順の整備

規制を理由に、ネガティブ・リストを作成し強制・禁止するよりも、顧客利便とサービス・レベル向上を安全確実に実施するためという視点で、代理店用業務を設計する必要がある。

デリバリー・チャネルというと物的な拠点数のみに意識が向きがちであるが、チャネル・タイプ毎に適合したサービスの機能と品質が重要である。チャネルは顧客獲得の場でもあるが、顧客喪失の場ともなり得る。顧客ロイヤリティを上げるために、サービスの内容とレベルを効果的に管理する仕組みが求められる。

代理店戦略検討の手順例

代理店は主としてチャネル戦略の一部であるため、従来のチャネル戦略全体を見なおす必要が出てくる。単純に代理店制度が規制緩和され他行も採用するので自行も何かしなくては・・という発想で実施すれば、代理店(通常は優良法人取引先)に迷惑をかけるだけでなく、顧客の信頼を損ね、行内でも失敗体験がその後の代理店展開を阻むことになる。


代理店候補の販売プロセス実行可能性評価

以下に典型的な代理店戦略策定の手順を紹介する。

    経営環境、市場環境、競争環境等を整理して、自行が注力する事業分野を優先付けする。例えば、個人ローン、ビジネス・ローン、フィービジネス、資産預りビジネス、小口決済サービスなどである。

    顧客ニーズを吟味してワンストップ(コンサルティング)型サービスかトランザクション処理型サービスかを判定する。その際には、提供商品とサービスをどこまでアンバンドルするかバンドルするかが重要である。

    事業分野毎に、必要な商品機能、価格戦略、コスト戦略、ブランド戦略、デリバリー・チャネル戦略を想定する。客観的な強み弱み分析を行って、弱みの部分を代理店で補完するのか、強みの部分を代理店で更に強化するのかが戦略的な判断となる。特に投資回収の実現性と時間の予測評価が代理店適用の分岐点となろう。

    代理店適用分野を抽出したら、その代表的候補企業(個人)との折衝に入る。双方にメリットのある方法でなくてはならない。また、相手が乗合代理店となる場合に備えて、自行との取引を優先してもらえる仕掛けや他社に移行することを防ぐ仕組みを考えておくことも重要である。ITのサービス・レベル(代理店に対するポータル・サイトやコールセンターによるヘルプ機能等)で差別化することや相手の本業に代理店業務をロックイン(決済連動やエスクローなど)する手法が有効となるだろう。

    代理店チャネルが全く新規の商品や顧客を対象とすることは少なかろう。結果として、既存チャネルとのコスト重複が発生する。その期間を短くすることが不可欠であり、新チャネルへの移行計画の策定と確実な実施が必要である。

    対象とする顧客層、商品、業務プロセスを整理して、代理店によって独自の部分と共通部分を整理する。共通部分は極力部品化しながら規模のメリット追求型の処理態勢を設計する。独自部分は、先進的エンジニアリングを活用して、開発・導入・展開の低コスト化と迅速化を図るとともに、代理店負担か自行負担かを手数料配布や将来の競争優位性をみながら判断する。

    必要な研修や支援体制を設計・構築・修正する。担当する銀行員が兼務では不可能なので、チャネル全体を企画管理支援する統括部門を創設する必要があるかもしれない。その際に、代理店を下請けのように考えてはならない。戦略的パートナーだから、それなりの態勢が必要なのである。

    自行のシステムと代理店に提供するシステムをプロセス機能、データ(情報)の視点から配置する。勘定系窓口端末を代理店に設置すれば良いとする考えもあるが、間違いである。銀行内部用、代理店共通、個別代理店用とに区分せざるをえない。個別代理店の勘定分別管理や手数料計算、コスト配賦などの機能を盛りこんで、システム全体を体系化しなおす必要がある。機密情報管理、コンプラ・チェック、SOX法対応などに対する配慮も不可欠である。

    以上のような事前準備項目と導入後の運用管理に必要な項目を列挙する。それを実行する為の要員やコストを予測して、ビジネス・ケースを作成する。また、得られる付加価値を自行と代理店で分配するルールを整理する。

既述したように、既存業務に代理店チャネルを追加するだけでは採算は取れまい。できるだけ新規市場の開拓を心がけるべきである。また、チャネルには大きく、対面型・非対面型とインバウンド型・アウトバウンド型がある。金融庁は、今回の制度改正にあたってインバウンドの対面型を想定しているようだが、このチャネル・タイプの主要なビジネスである高度・複合金融商品を代理店が問題なく販売できるだろうか?この分野こそ、銀行員が提供すべきではあるまいか。筆者はアウトバウンド型(対面、非対面)が銀行代理店に適していると考えている。非対面・インバウンド型も、ネットワーク上で自動処理するトランザクション型ビジネスでは有効なチャネルとなる場合があるだろう。

大手銀行だけでなく、地方銀行、第二地方銀行、信用金庫などの各業態が協会などを通じて代理店施策を検討している。当局のガイドラインと協会による解説を見てからと考えている金融機関が多いようだが、それでは戦略的展開は不可能である。受動的思考から戦略は生まれない。また、戦略を成功させるためには、自ら環境を変えるくらいの積極性が必要である。まずは、自行の事業目標と中長期的な競合相手を想定した検討を短期間で行うべきである。その上で可能な範囲から展開していかなくては、市場の動きに遅れてしまう。

また、銀行はこれまでATMネットやインターネット・バンキングによって。顧客との接点を希薄化してきた。減少する一方の対面チャネルすらも、代理店に任すことに関する対策も考える必要がある。

当面は、金融機関が他の金融機関の代理店となるパターンが中心となるだろう。その際に、外資系金融機関が強力な商品と巨額な販売促進予算を持って参入してくる可能性もある。様々な事象に一喜一憂せずに、長期的展望と戦略性を備えた代理店戦略を策定して、柔軟に対応することが重要であろう。