◇ 新規参入銀行の課題 ◇


 普通銀行業務への新規参入が行なわれた平成12年から3年を経過しました。今年は、3行が黒字転換期限の3年目を迎えることになります。一方で、中小企業融資に特化する2行が設立準備中でもあります。

これら新規参入銀行に関しては、マスコミの注目度が高い中で、一般には過大に期待し、金融界では軽視した論調の評価が多いことは事実です。

個別行の課題や実績を短期的視点で論評するのでなく、新規参入行の動向や業績から既存銀行が学ぶ点も多いとの考えから、以下の資料をとりまとめてみました。



新規参入4行の業績   平成15年9月期、( )内は平成14年9月期  

ジャパンネット IYバンク ソニー銀行 イーバンク

開業日

平成12年10月

平成13年5月

平成13年6月

平成13年7月

口座数(千口座)

740(550)

138(75)

231(143)

599

社員数

73(78)

145(131)

77(63)

79(68)

資本金(億円)

200

610

188

160

預金額(億円)

1,341(975)

1,360(801)

3,193(1775)

893(59)

業務粗利益(億円)

11(10)

111(38)

24(2)

2(0.1)

営業経費(億円)

22(23)

109(91)

29(25)

22

人件費(百万円)

299(311)

794(758)

401(358)

330

物件費(億円)

19(19)

99(83)

24(20)

18

税前損金(億円)

11(△14)

1(△53)

5(△22)

21(△25)

累積損失(億円)

131(△107)

203(△175)

92(△64)

110


出展:各社ディスクローズ情報
社員数には、派遣・嘱託を含まない。
イーバンクの平成149月期一部指標は未公開

平成12年10月開業のジャパンネット銀行(以下JNB)以来、IYバンク(平成13年5月開業)ソニー銀行(平成13年6月開業)、イーバンク(13年7月開業)が普通銀行業務に新規参入した。日本振興銀行と新東京銀行が平成16年度での開業を目指して準備中である。各行が設立条件である開業3年内の黒字転換達成を疑問視される中、IYバンクのみが今期黒字化を見込んでいる。新規参入行の課題と将来性を整理するとともに、既存銀行の戦略的方向性について考えてみたい。

新規参入行のビジネスモデル

新規参入行の強みは、「既存銀行のように店舗と人員を持たないのでコストがかからない。ついては、安い手数料、高預金金利、高い利便性を提供するので急成長と早期採算化が可能」とされている。JNBとイーバンクは決済に特化し、薄利多売を追求している。ソニーは中産階級を対象とした資産運用に特化し、持株会社の下で保険や証券などとのシナジーを求めようとしている。IYバンクはATMサービスに特化して、規模のメリットを追い求めている。振興銀行や新東京銀行は、既存銀行が注力していない中小企業融資に社会的ニーズがあり、無担保を中心とした中小融資業務に特化するとしている。

共通していることは、既存銀行は効率が悪くてコストが高く、顧客を軽視して市場のニーズ・方向性と乖離しているから簡単に勝てると考えていることだ。加えてITを駆使すれば極めて低いコストモデルが構築できる装置産業だという誤解もあるようである。

銀行のコスト体質を測定する指標として古くは預金経費率が主流であった。都市銀行では1%前後で、中小企業融資で参入予定行が競合する都市型信金でも2%前後である。この指標から言えば、世界トップクラスである。

今日では、業務粗利益で経費を除算したOHRが中核的指標となっている。不良資産を抱えた一部の銀行を除けば60%以下が大半であり、やはり国際的に高い効率水準にある。新規参入銀行の資産規模が小さい間は、太刀打ちできる水準ではない。

参入行の営業経費で大半を占めるITは初期投資の比率が高く、そのライフも6年前後と短い。保守運用経費も累増していく。継続的に差別化できる機能をもって、ITを長期使用できなくては、ITコスト負担から逃れることはできない。業務パッケージで初期投資を抑制して解決できる問題ではない。また、新規事業計画作成で誰もが陥る罠ではあるが、新規参入事業計画は、IT投資を低く見すぎ、資産増加・手数料増加を楽観的に見過ぎる傾向がある。新設銀行は低価格が当り前というイメージが定着してしまっていることも痛手である。

銀行への参入は容易になりつつあるが、安易に参入して、退出されても社会的に困る。市場機能や秩序の革新ではなく、混乱・破壊するだけの新規参入も困る。そこまで顧客の自己責任を行政が要求することは許されまい。退出にあたっての条件が整備されているとも言いがたい。参入計画には、撤退シナリオが必要である。

単純な決済特化型は収益確保が困難

 イーバンクもJNBも個人の小口決済をターゲットにしている。件数を確保するためにはもっともな選択であるが、取扱い金額に限界がある。携帯なら10円、インターネットなら50円で送金できるのだから、個人顧客には喜ばれようが収益確保は難しい。全銀システムを使えばそのコストがかかり、3万円以上の送金なら印紙代が必要であることに変わりはない。操作ミスや宛先・金額を間違えて組み戻しも発生する。非標準の手続きは全自動化が難しい。少しでも手作業が発生すれば、人件費、物件費が固定的に発生する。マルチペイメントなどで個人の公的資金決済も自動化が進められているが、全ての取引が自動化されるまでは、旧来のプロセスと自動プロセスを並行させる必要がある。つまり、コストは重複する。その結果、IT投資は当初計画を大巾に超過する。両行の営業経費はともに半期22億円だが、18億円は物件費である。それ同等額の経常損失を発生させて、資本金の70〜80%を使い果たしている。

決済は、汎用的で利便性の高いことが大前提である。独自性を発揮すれば、汎用性を犠牲にしかねない。イーバンクの仮想銀行サービスは、決済機能をコアとしたビジネスプロセス・アウトソーシングであり、極めて斬新なサービスなので既存銀行にも参考になるだろう。当サービスでは、債権債務関係にある複数の当事者が、同行に口座を保有し、グループを組成する。グループ内での債権債務関係は、イーバンクがシステムで管理する。コア・メンバーからの指図を擬似化して、実際には事前に定めたルールに基づいて、自動的に決済処理を行ってしまう。つまり、コア・メンバーが実質的に、銀行の決済処理を実施できる仕組である。結果として、各グループ固有の決済サービス導入が可能となる。

ATMサービス特化型の顧客は他金融機関

現在、わが国にはATM/CDが17万台程稼動している。IYバンクは、グループ小売拠点に1万台以上(予定)を設置して、他行客利用による手数料収入を収益源とする。課題は大きく二点である。

第一は、ATM台数が既に飽和状態にあることだ。1.2億人の70%がATM利用者として1台あたり利用人口は494人である。月に3回使うとしても、1日平均49件/台となる。手数料を負担しても利用するのは、その半分以下だろう。IYバンクが目指す1日70件という利用件数を確保するには、場所や手数料体系に相当の工夫が必要である。

第二は、手数料収入増加とIT投資サイクルの関係である。昨年9月の中間決算における累積損失は200億円を超えた。その大半がIT関連だろう。6500台のATM購入費用は250億円以上となる。5年定額償却として保守料と合わせれば年間100億円前後である。ホストも計画以上にコストを要したようだ。初期投資が嵩めば保守コストも比例して増加する。他行客の利用件数とATM台数のチキンアンドエッグ競争である。今期は、その分岐点を越えると予想されているが、問題は持続性である。

今上期の利用件数は67百万件であった。他行取引で手数料を一般的水準の50円とすれば33億5千万円の役務収益である。150円という高額料金を支払う銀行もあるようだが、その場合でも100憶5千万円である。実際の役務収益は121億円であった。20億円以上の差額は、ATM設置料などであろうことが推測できる。つまり、主要顧客は自行預金者ではなく、他の金融機関ということになろう。課題は、ATM設置料などの大口手数料や高額な取引手数料がいつまで安定的に期待できるかである。提携先増加、時間経過とともに、ホストシステムの保守運営コストは増大固定化し、ATMの入れ替え時期もやってくる。累損一掃との時間競争となる。

昨今の障害多発に見られるように、ATMネットワークは巨大化・複雑化して維持管理が難しくなっている。特に、参加金融機関によって異なるサービス時間帯や出金限度額、更には提供サービス範囲を管理しなくてはならない。店舗統廃合やコンビニにおける新設も頻繁である。今後は入金サービス、マルチペイメント対応などの新サービスに続いて、カードやATMの機能も多様化することが確実である。単独で管理できる銀行はなくなるかもしれない。ATMネットワーク管理そのものが、一部金融機関か新規参入銀行の寡占的ビジネスになる可能性が大きい。

資産運用特化型は規模拡大速度が勝負

ソニー銀行はインターネットによる資産運用支援「MONEYKit」を前面に、外貨預金、投資信託、各種ローンなどで個人顧客の資産運用全般をサポートする戦略を展開している。昨年の8月には預金残高が3千億円を超えたという。しかし、総資産におけるローン残高は7%弱であり、66%は有価証券で運用されている。昨年3月期、経常収益の70%は有価証券利息配当か売却益である。金利収益は5%にも満たない。役務収益も極めて小さい。OHRは611%であり、二期連続の損失40億円で累損は86億円となった。9億円の業務粗利益に54億円の営業経費だ。減価償却費、機械等賃貸料、業務委託費の合計が60%近い。ソフト開発投資だけで65億円だから、IT関連コストの負担が大きすぎるようだ。計画段階では、ある程度のIT投資を覚悟していた筈だから、問題は資産拡大と収益率向上の速度が計画未達ということになろう。

資産運用型は、預かり資産の1〜3%の収益が得られるストックビジネスである。損益分岐規模となる時期を早めるために、証券や損保などのフロー・ビジネスを取り込み、同じストック型の生保事業とのシナジーを目指すという考えもあるが、果たして、顧客訴求力があるだろうか。単に合体させるだけでは既存の金融モデルと何ら変わらない。

資産管理業務は、0.1%以下の薄利ビジネスであり、単独でのビジネス展開は難しい。しかし、無くてはならない機能であり、マスタートラストのような形態で、寡占化が進むであろう。資産の管理、運用とアドバイスを連動した形で、プライベート・バンキング(PB)的業務が普及するものと思われる。ただし、画一的サービスによるPBでは、顧客維持が難しい。いかにカストマイゼーションとコストとのバランスを取るかがポイントになる。アライアンスが最も重要な戦略となろう。

この分野で今後考えられる新規参入は、自動車や不動産などの高額商品を扱う企業だろう。商品販売自体が大口の金融ビジネスに直結するからである。今年、規制緩和が予定される信託サービスと組み合わせると、本業とのシナジーが充分に期待できる。

中小融資特化型は信用リスク管理能力が生命線

金融ビジネスで高収益が期待できるのは、効率的な大口顧客かリターンの大きなリスク層である。振興銀行や新東京銀行のように、中小企業融資に特化した銀行を設立する理念は判るが、高リスク層を前提とした事業計画になっているのかが問題である。リスクが高く、与信に必要な情報・資料が不十分な取引先である。新銀行が優良な商工ローン並みの審査ノウハウと回収技術を具備できることが必須条件となる。歴史ある地域密着型銀行でも難しいことなので、新銀行には余りにも遠い道のりに思える。外資系信託買収によって認可コストと時間は削減できるが、ビジネスプロセスとITは新規開発であり、課題解決とは無関係である。

設立理念とビジネスモデルも乖離しているようだ。商工ローン業務を行なうのに、自前の普通銀行機能は必要ない。例えば、決済は収益性がないので、既存銀行を活用するのが合理的だろう。信託会社も大巾に参入規制が緩和される。使い方で、面白いビジネスモデルが可能となるだろう。古いビジネスモデルをITで化粧するだけでは、本質は変わらない。一方で、コストに関する前提にも危うさを感ずる。ITを軽視しすぎているか、余りに野放図なIT計画を立案しているようだ。業務設計、商品設計でも経験者が少なすぎると言われている。信用第一の銀行業に参入するからには、あらゆる面で堅確性を確保して欲しいものである。

この分野での事業機会は、債権流動化、信用保証、サービサーなどである。公共機関には二次市場育成支援を期待したい。千葉県や福岡県などで計画されている地域ファンドに対する公的信用保証のような仕組みも簡便で有効だろう。そこでの既存銀行の役割(組成力とマーケットメーク力)は大きい。

新規参入における考慮点

既存銀行の事業方針や運営姿勢を批判して銀行業務に参入しても成功条件を満たすわけではない。まずは、金融サービス産業の今後の環境を読んで事業機会を発見することである。

第一に、市場型間接金融化が進む。第二に、金融機能はアンバンドルされていく。大きくは大量・低価格のモデル、ハイリスク・ハイリターンのモデル、ハイバリュー・高手数料のモデルなどに分けられよう。そこに決済や預金、融資、証券化などの機能をアレンジすることになる。第三に、垂直型のビジネスモデルから水平型に変わる。つまり金融商品のオープン化が進む結果、新商品開発専門、販売専門(それも地域や顧客層別に分かれると考えられる)、後方事務処理専門などに分業化されるだろう。専門性と品質が勝負となる。コストは品質に組み込まれる。10年前と今日のIT産業を比較すれば、その影響の大きさが理解できるだろう。

業務範囲、価格、チャネル、サービスの全てが革命的に変わっていく。自社の強みと弱みを客観的に分析すれば、自ずと目指す戦略(商品・価格・チャネル・サービス)は絞り込める。それを、収益・コスト・コンピテンシー・時間軸に落としながらシャッフリングすれば、具体的な事業計画が作成できる。例えば郵貯民営化が実現する場合、民間金融機関としては郵貯のどの機能を切り出して、自社の機能強化に結びつけるかと選択肢が増す。道州制が採用されて、地銀などの営業地盤線引きが全く変わるとしたら、新地盤でのコンピテンシーを何に求めるのか。株式売買仲介や保険窓販の全面解禁という動きもある。代理店制度も急速に規制緩和されている。チャネル戦略は根本から変わるだろう。これらを反映した戦略をプロセスに展開設計し、ITに搭載して実行することが不可欠である。

こうして見ると、新規参入銀行に既存銀行を上回る強みは見当たらない。ブランド力や低デリバリーコストは、余り意味をなさなかった。他社にないコア機能を開発し、既存金融機関などとのアライアンス戦略を展開することが不可欠である。

既存金融機関としては、新規参入銀行をいたずらに拒絶したり、軽視するのでなく、新しい発想やサービスを客観的に評価し、積極的に連携することが得策である。相互にメリットを享受しつつ、市場拡大や顧客サービス向上に結びつける姿勢が重要であろう。