最近、わが国においてもプライベート・バンキング(以下PB)が注目されている。しかしながら、欧米の金融機関のような本格的PBには至っていないようである。事業分野から言えば最も有利な位置にある信託銀行ですら事業承継や遺言信託が中心であり、高額な資産運用に関しては証券系(特に外資系)に席巻されているという。富裕層との取引を預金獲得という古い発想ではなく、有料の財産管理支援サービスと捉えなおすべきであろう。

わが国の縦割り金融制度やリスク回避の資産運用風土、サービスは無料という意識等々、確かにPBビジネスに対する阻害要因は様々である。しかしながら、50万人とも100万人とも言われる1億円以上の金融資産を有する富裕層は、場合によっては法人取引よりも魅力的な面がある。欧米では預り資産の1%が年間手数料として見込まれる。仮に、資産運用の一環として他社の商品を仲介したり、証券化等のサポートを実施すれば、そこからもフイーが期待できる。アドバイザー1人あたり30億円程度の預り資産を確保すれば、粗利ベースで30%近い利益率が可能となるだろう。外資系ばかりの参入が目立つが、わが国の金融機関も従来の発想にとらわれないでPB用ビジネス・モデル構築が急務と考える。

以下にビジネス・モデル構築の手順概要を整理してみた。


第1ステップ:市場構造調査

個人の金融資産額は簡単には把握できない。高額納税者リストや、自社での預り資産額から推測することが多い。把握したいのは、個人・家族・所有会社を名寄せした上での総資産・金融資産・純資産・運用可能資産である。全国展開している大手金融機関よりも地域金融機関や地場証券の方が、域内の富裕家族を把握しているだろう。税理士、百貨店外商部門、画廊、豪華旅行の代理店などから単発的に情報を入手したり、電気料金・水道料金から所得水準を類推することは可能ではあるが、消費額が中心になるので、必ずしも運用可能資産とは一致しない。つまり、生活は派手だが、運用できる資産は少ない層がある。どこの金融機関もやっているように、士族、不動産長者、高額納税者、IPO長者、企業オーナー等から見込み客を絞りこむしかあるまい。要は、これらの候補から真の富裕家族をいかに抽出するかであるが、こまめにコンタクトしたり、PBとしてのブランドを確立するなどの地味な努力を続けることになる。わが国は先進国の中で、米国についで貧富の格差が大きく、全世帯の3%程度が金融資産1億円以上と推定される。即ち、50万世帯ある県であれば、1―2万世帯は富裕層候補と考えられる。士族の総資産が3億円、不動産売却者は2億円、IPO長者は40億円の資産があるといわれる。候補者の属性から計算していけば、域内富裕個人の金融資産規模が推定できる。東京都以外で富裕個人の多い地域として、京都府、石川県、三重県があげられることが多い。

通常、富裕と言える程度まで、個人が資産を蓄積するには、三段階あるとされる。資産形成段階、資産運用段階、富裕段階である。当然ながら、各段階を構成する世帯数はピラミッド構造となる。わが国の約4500万世帯の内、21%が金融資産15百万円以上で、14%が金融資産3千万以上である。各層を資産形成段階・資産運用段階層と見なし、更に3%が富裕層とすれば、3%・11%・21%の顧客層が形成される。PBが対象とするのは3%の富裕層であるから、その予備軍である11%の資産運用段階層から、自社顧客ベースに取りこむパイプラインを設計することが、戦略の第一歩となる。邦銀の戦略は、この市場モデルに基づいている。一方、欧米系は最初から、3%層、金融資産10億円以上の層を主要顧客層として、1億円以上の層を予備軍ととらえている。アドバイス等による手数料ビジネスを主眼とするのであれば、欧米系方式でなくては採算が成立しないであろう。

当メソドロジーでは、大衆富裕層を対象外として、金融資産10億円以上(1億円以上を予備層)の富裕層をPBの市場と考えることとする。

第2ステップ:ニーズ調査

富裕層のニーズは千差万別でパターン化出来ないと言われている。確かに子女の留学支援や、海外美術品の購入手続きなど様々な要求がある。しかし、自分や親族の所有する財産の保全、増大をより確実に実現するという根源的ニーズは、マスリテールと同じである。違いの第一は、運用額が大きいので実現方法の選択肢が増えることにある。全資産の貸借対照表、キャッシュフローが掴めれば、自ずと提案すべき方法は絞りこめる。これらのデータを入手する手段として、情報提供や投資アドバイスを繰り返すのであり、情報提供そのものが目的ではない。欧米で注目されているフアミリーオフイスというサービスも、同じ発想である。マスリテールと異なる第二は、失うものが大きいことによる心配事の多さ、複雑さである。これらの相談を受けられる関係になるためには、長い交流と実績に基づく信頼を得るほかなく、いわゆるフアミリーオフイスとしての関係を構築できれば、有料ビジネスとして充分に成立する。

欧州では、1千万ドル以上の預り資産客を対象とするが、多くの場合は長期ホールドが求められている。利回りよりも、目減り防止である。運用益で年間支出を賄うことを支援し、支出の効率化をアドバイスする。

米国では、一代で財をなした富裕個人が圧倒的に多いので、証券・不動産・絵画などによる利回り重視とリスク管理が中心的サービスである。いわゆる投資プラクテイス・サービスである。
米国・アジアではIPOなどによるニューリッチも多いので、この層にはリスク分散を目的としたグローバル運用支援を提供している。特に多国間で資産を運用する場合は、税務処理等も複雑となり、とても個人では処理しきれない。恐らくわが国でも、この三タイプに分類できるであろう。いわゆるプライベート・バンキングというよりは、ウエルス・マネジメントという呼称の方が、提供するサービスを適切に表現できる。
運用可能資産を大量に持つ本当の富裕層(ストック・リッチ)は、大きく二つのタイプに分かれるようだ。

第1は、一線を退き、時間に余裕のある人々である。想像よりは質素な生活を好み、消費においては廉価品よりも将来価値を重視する。購入時の一時費用よりも、長期的な維持費用に注意を払う。広い交際範囲から知識とアイデアを吸収し、投資に関する知識も豊富である。元の職業は自営業が多く、その経験から助言者を選ぶ能力に優れている。

第2は、まだ現役の実業人である。現在もキャッシュ・フローが旺盛であるが時間に余裕がない。その為、資産運用方法を学習・検討する優先順位は低い。収入が運用リターンを上回るので当然ではある。最近話題の若手IPO長者、ストックオプション長者、プロスポーツ選手などが代表例である。
セグメンテーションは、顧客の属性分析に価値があるのではない。共通ニーズを発見することで、アプローチ方法やソリューションの効果を高めることが目的である。顧客ニーズの分類・把握・解析技術が重要となり、代表的切り口としては、以下のようなものがあろう。

1) 時間的余裕の有無(生活時間配分が把握できればベストである。
2) フロー収入とストック収入の比率
3) 価格感応度
4) 資産運用知識の有無、興味の度合い
5) 総資産・金融資産・運用可能資産の比率
6) 消費性向
7) ブランド重視の程度

などである。 

第3ステップ:主要成功要因分析(CSF分析)
欧米系PBの謳うセールスポイントがCSFの代表的なものと考えられる。
中立性:
特定金融機関の商品を販売するのではなく、クライアントの状況に合致した商品を選択・推奨する。この点、特定の金融機関が実施するには難がある。仮に、持株会社制によるグループ協業でも、中立性は疑われる。
守秘性:
地域金融機関は、顧客の情報を豊富に把握しているが、逆に、守秘性に疑問を持たれることが多い。クライアントは、自分の資産状況を他言されることを恐れる以前に、把握されること自体を忌避する傾向が強い。むしろ、地縁・人縁のない他地域のPBを使うことが多い。
専門性:
資産運用技術、リスク管理、税務、関係法制度等々の専門知識が要求される。
クライアントの抱える課題や要望は千差万別であるから、全ての専門知識を個々のアドバイザー(FP)に求めることは出来ない。専門家のネットワークを効率的・効果的に構築する必要があるが、社内に抱え込んでは、コストモデルが現実的でなくなる。ましてや、益々、国際分散運用が重要となるので、日系であろうと、欧米系であろうと、1社単独で専門家集団を保持することは不可能であろう。提携をプロセスに組み込むべきである。
品揃え:
情報提供、投資アドバイス、リスク・アドバイスに止まらず、一任勘定を含めた機能提供が必要であろう。ソリューションとしては、単純な預金・証券・保険商品だけではなく、決済方法とカストデイを組み合せたアグリゲーション・サービスを基盤として、商品投資、不動産投資、ベンチャー・フアンド投資、美術品投資、貨物船などプロジェクト投資など検討すべき商品分野はアイデア次第である。運用可能資産を確保するために、未公開の自社株や保有不動産を流動化するケースもあろう。加えて、子女の留学・進学支援や、高度医療施設(海外を含めて)紹介、ボランテイア活動支援など提供する機能は際限がない。事前に揃えるよりも、顧客ニーズが顕在化した時に、JIT(ジャストインタイム)で機能提供できる仕組みを用意しておくことが重要である。
人材力:
クライアント・マネジメントを行なうアドバイザーに、優秀な人材を確保・維持・育成する仕組みである。ビジネスをスタートした初期は、最も重要なCSFとなるだろう。採用方法、訓練プログラム、情報・知識共有を目的としたナレッジ管理体制、業績評価・報償制度などを設計・開発しておく。サービス・ビジネスの生産手段は専門家の頭の中であるから、労働移動性の管理には十二分の配慮が必要である。
信用力:
ブランドである。さりとてマス・リテールが対象ではないので、一般のブランド戦略とは異なる。知る人ぞ知るが重要である。まずは、コアのクライアント・グループを構築して口コミを図ることになろう。並行して、特定グループの出版物や会合における広報、講演などを通じて、ブランドの認識率を高めることになる。
コスト:
日本での通常のサービス・ビジネスは、間接コストが売上の20%,営業費用が20から30%必要である。このコスト構造はPBビジネスでは受け入れ難い。何故なら、クライアントから見えるコストは、アドバイザーの人件費とその施設コストだけであるから。成功報酬価格でない限りは、間接コストと営業コストは合わせて10%程度に押さえる必要がある。
仮に、アドバイザー人件費を年間15百万円とし、物件費を5百万円、間接・営業経費を売上比10%,粗利益率を25%とすれば、アドバイザー一人当り年間手数料収入として3千万円が前提となる。運用資産の1%を手数料とすれば、30億円の運用資産が必要である。アドバイザー1人当りで管理可能なクライアント数を20人とすれば、1クライアント当り1.5億円の資産運用が条件となる。それが不可能であれば、斡旋した商品の販売者からのキックバック収入をビジネス・モデルに組み込むこととなる。
営業力:
マス・マーケテイングの市場ではない。一本釣りのソリューション・マーケテイングの世界である。ソリューションをアレンジするには、クライアントのイシュー(課題、案件)を把握・理解することが前提となる。これを労働集約的に展開したのでは、とても前述のコスト・モデル構築は不可能である。
また、究極の商品はアドバイザーその人であるから、スーパー・アドバイザーによる講演などだけで販売しては、結局はクライアントの期待を裏切ることになりかねない。グループ内外の企業と協業することで、イシュー単位で見込み客を紹介させるパイプラインを構築することが有効であろう。紹介手数料を支払ったり、その企業の商品を優先的に紹介する(但し、顧客の不利益にならないことが前提)などのインセンテイブを設計することで双方の利益を追求する。大事なことは、協業を営業プロセスとインセンテイブに組み込むことである。提携契約を締結するだけでは、何も起こらない。
メソドロジー:
アドバイスを実施したり、クライアントとの関係管理のメソドロジーも重要である。特に流動的なチーム編成で、クライアントに適したソリューションを提言・実行する場合は、チーム・メンバーが案件毎に変化する。各メンバーが自己流の作業を行なったのでは、効率が悪いだけでなく、クライアントに悪影響が出る。成功・失敗の事例を知識ベースとして活用したり、種々のツール(資産運用相談やシミュレーション・ソフトなど)や情報を整合性をもって提供するためにも、作業方法の基本手順とも言えるメソドロジーは、重要である。
これらのCSFは、顧客セグメントや個別のイシューによって重要度が変化する。ターゲット・セグメントや得意とするソリューション分野を絞り込み、それに合致するCSFを実現するコンピテンシーの獲得・強化が戦略となる。
第4ステップ:SWOT(強み・弱み・機会・脅威)分析
自社が想定するPB市場に関して、環境面での変化要因を抽出する。
市場を拡大した
り、収益性を向上させるような環境変化を機会として抽出する。一方、市場の成長性や収益性に悪影響を与えそうな変化要因を脅威として抽出する。これらの機会と脅威が、対象とする市場構造や顧客ニーズにどのような影響を与える可能性があるのかを分析するのが機会・脅威分析である。この結果を踏まえて、自社が目標とする市場セグメントを設定する。
次いで、対象となるセグメントにおける顧客ニーズとそれに答えるためのCSFを選定する。また、対象セグメントにおける現在と潜在的な競合相手を抽出しておく。CSF各々に対して、自社および競合相手を比較しながら自社の強みと弱みを列挙する。その際に注意すべきは、観念的或いは先入観に基づいた強み弱みの羅列は避けることである。筆者の経験からして、自社の強み弱みを客観的に把握している金融機関は極めて稀である。ましてや、そのルーツ・原因が認識されていることは少ない。
抽出した機会・脅威を横軸に、強み・弱みを縦軸にとって、相互の関係から派生するであろう影響の善悪・大小を推定する。いわゆるツーバイツーの4象限に整理するのである。機会と強みの交差する象限は、そのまま現在の施策を強化すれば良い。機会・弱みの象限と脅威・強みの象限は、外部との協業を含めて抜本的強化策を考えるか、場合によっては放棄することになる。脅威・弱みの象限は基本的に撤退・放棄の対象である。ただし、パラダイム・シフトが実現できれば、大化けするポイントでもある。パラダイム・シフトを促進する要因と阻害する要因を比較しながら、逆転の発想を練るのも面白い作業であろう。
第5ステップ:戦略オプションの選定
市場セグメント別魅力度,ニーズ分析,CSF分析,SWOT分析を組み合せて、幾つかの戦略シナリオを作る。対象セグメントの市場性、事業目標値,収益コスト・モデル,施策一覧とその費用効果予測,実現可能性,時間的制約などでシナリオは構成されよう。自社の事業目標に最も適合するシナリオを採用する。それ以外は第1シナリオが崩れた時の代替戦略となる。つまり、第1シナリオの進展を管理する基準を設定しておき、基準から外れた場合に代替策にシフトするのである。主たる戦略オプションには、ビジネス・システムの各要素に関する施策も一通り用意しておく必要がある。さもないと戦略が単なる謳い文句で終ってしまい、実行されなくなるからである。
ビジネス・システム要素としては、提供商品・サービス,業務プロセス,スキル,人
材,組織(責任権限),評価制度,ITシステムなどが含まれている必要がある。詳細レベルはこの段階では不要だが、概要レベルのものは作成しておく必要がある。ビジネス・システム要素を考慮に入れた三つ程度の戦略オプションの中から、機関決定で一本に絞り込むことになる。
第6ステップ:営業戦略策定
承認された戦略オプションを具体的に展開するための営業戦略を作成する。
ここで中
心となるのは収益モデルである。一般的に金融機関の営業戦略というと営業推進施策を作ることが多いが、施策そのものが目的化し易く、軌道修正が出来ないという欠点ある。あくまでもプロセスではなく、エンテイテイ(管理対象実体)を管理できるようにすることが重要である。プロセスも重要であるが、それはエンテイテイを管理・操作するためのプロセスであるべきだろう。時間軸をとりながら、期待収益とコスト構成をシミュレーションする。収益とコストを構成する各項目を列挙し、期待値を参入しながら管理項目を選定するのである。例えば、クライアント当りの預り資産や受け取り手数料,アドバイザー当りの人件費・経費・担当クライアント数,年間のクライアント歩留り率などである。すると、キーとなる目標項目を効果的に実現するための必要条件が抽出できる。注意すべきは、その条件の実現効果は実施してみなくては判らないということである。期待値に幅を持たせることで、結果パターンを複数用意する必要がある。それによってリスク管理が出来る。対象セグメントから獲得すべきクライアント数,期待収益を実現するための施策などが抽出できたら、それを営業のメカニズムとしてモデル化する。
営業モデル作成の第一歩は、クライアント獲得のためのパイプライン構築である。見込み客の存在する場所に対し、自社とそのサービスの存在を知らしめ、興味を抱かせる施策を立案する。必ずしも自社単独で実施するだけでなく、他社との協業を活用することになろう。対象は14%の富裕層・資産運用段階層である。この段階ではチャネル戦略が重要である。
認識段階に至った見込み客に対して、個々のニーズ・CSFに合わせた提案活動を展開する。しかし、そのニーズは簡単に把握出来ない。その為に様々なセミナー,DM,情報提供,アンケートを繰り返す必要がある。ただし、ワンウエイの情報交換は余りに非効率である。インターネットなどの双方向の通信手段を構築出来れば極めて効率的である。クライアントの情報や興味分野を把握しやすくなる。また、一定数以上のサンプル・データが入手できれば、属性・ライフスタイル・ライフステージ等によって興味分野を統計的に推測することも出来る。この段階では顧客データ収集タクテイスとそれを分析して、ターゲット顧客を選別するメカニズムが重要である。
ターゲット顧客に対しては、担当アドバイザーによるアプローチが行なわれる。見込み客の琴線に触れる情報提供、提案活動と並んで、見込み客の決断を促すような営業推進プログラムや安心感を与えるようなセミナーや既存客からの紹介プログラムが必要である。この段階で重要なのは、アドバイザーの資質・技能であり、アドバイザーが顧客に提供する情報を収集・整理・加工する仕掛けである。
獲得できたクライアントの管理(管理という言葉は適切ではないが、英語のManagementに相当する日本語が他に見当たらないので管理と言わせて頂く。)の段階である。最終的な評価基準は顧客満足(究極は契約継続率)であり、その為に顧客の期待を正確に把握しなくてはならない。一般的に顧客の期待は流動的であり、相対的である。より正確に把握するためには、顧客との折衝には二人のアドバイザーが居る方が良いかもしれない。特に、取引初期段階で顧客の癖や好みを把握できていない場合は効果的である。アドバイザーがクライアントと親密な信頼関係が出来た後は、別の担当者が確認の為に時々コンタクトする位で良いだろう。
クライアントの期待が把握できれば、その解決策の提案を作成することになる。複数のソリューションを組み合せて提言することが多いだろう。そのソリューションをクライアントが採用した後の成果管理も重要である。場合によっては、ソリューションを途中で変更する必要が出るかもしれない。提言だけして、後はクライアントのリスクだというような無責任な自己責任原則は通用しない。この段階で重要なことは、クライアントの期待値管理とソリューション品揃え、そして成果管理(予実管理)の仕組みである。顧客満足が高ければビジネスは継続でき、他の顧客を獲得できる可能性も膨らむ。
第7ステップ:ビジネス・システム設計
営業戦略をを具現化するための組織的対応を立案・実行する。必要な事項は、全体の業務プロセス設計、商品・業務別のプロセス設計(業務規定、約款などを含む)、各プロセスに必要なスキルの定義・採用育成方法、事業規模と生産性基準に対応したスキルの量(即ち要員数)、プロセス実行の責任・権限と要員を配置する組織、組織単位・個人単位の予実管理・業績報償のための評価制度、各事項を効率的・効果的あらしめるIT対応などを立案し実行する。各施策は散発的に実施するのではなく、パッケージとして実施しなくてはならない。
IT対応として重要なことは、PBへの新規参入の場合、既存事業者のITシステムを模倣しないことである。ITの模倣は、ビジネス・システムの模倣を意味する。それでは、先行している既存事業者との競争に勝てない。また、極めて個別対応型の業務であることから、従来の定型的大量処理、全自動式のシステム設計にしてはならない。費用・開発期間・開発リスクの増大だけでなく、導入後の保守運営の負担が致命傷になる。IT素人には見えない、大きな落し穴が沢山ある。従来システムが巨大化した理由の一つに、全自動化を追求したことがある。余りに多くの例外的機能を極力プログラムに組み込んだことで、複雑化して柔軟性を失ったのである。人間の入力操作と判断力で済むことは、人手を介した方が効率的なことも多い。
また、外部提携先との情報交換が多様になるが、システム開発における外部接続には、極めて高い開発負荷とリスクが伴う。ビジネス・プロトコル(データ様式、情報項目の定義、コード等)の標準化を図りつつ、技術的プロトコルは、FTPなどの単純なものに統一すべきであろう。資産運用というとすぐに、財産評価やライフサイクル資金計画などのツールが思い浮かぶが、これらは差別化手段にはなるまい。パターン化された単なる計算ツールである。自社で開発するのも良いが、他社製を提供しても構わない。無くても差し障りはあるまい。むしろ、ストラクチュアド・フアイナンスやデリバテイブのシミュレーション、リスク評価を行なうツールの方が重要となる。IT戦略では、ビジネスに大きい貢献を期待できる技術分野に注力すべきである。それらは
データベース:
分散RDB、データウエアハウス、データマイニングなどを使って顧客情報、交渉履歴情報、商品情報などをデータベース化する。
ネットワーク:12インターネット,iクライアントとのマルチ・コンタクト・チャネルや提携先・外部専門家とのチーム・ネットワークを構築する。
知識ベース:
テキスト・マイニング、ルールベース・システム技術などを使って成功事例・失敗事例の参照、諸制度・法律などの参照、アドバイス・パターンの精緻化などを進める。
などが考えられる。業務の効率化よりも、コミュニケーションの効率化と提供する情報の高付加価値化を支援することが、IT戦略のポイントとなるだろう。
〜まとめ〜

一部の外資系PBサービサーにおいて、年間顧問料45万円、面談相談料が時間当り3万円、預り資産に対する顧問料が年間0.25%というような低価格での参入が見られるようになった。小規模業者は、間接コストを最少化して、低価格戦略を取るであろう。低価格戦略に対抗する為に、総合情報サービス提供を根拠とした高価格戦略を打ち出してはならない。総合とは、何もないか、あっても二流以下を意味することが多い。情報も、それそのものに価値はない。クライアントの抱える課題・期待を解決する判断材料となり、それを実現しない限りは、価値を発生させないからである。つまり、クライアントの判断を支援し、実行を代替・支援することが重要である。その為には、他社商品を含めてソリューションの品揃えと、一流の人揃えが勝負である。決して、外資系や大手金融機関のブランドイメージを恐れることはない。クライアントも一流であるから、表層的イメージだけでは、即座に見破ってしまう。

料金の透明性を確保しつつ、クライアントの期待値とのバランスを維持することが、サービス・ビジネス最大の成功要因である。

→ 調査レポート Backnumber