最近、金融機関によるビジネスモデル特許(以下BM特許)申請時の注意点や弁理士選定の方法についての質問を良く受けます。詳しくは特許事務所や特許庁にご確認頂くとして、予備知識程度の申請手続きをご紹介いたします。


1.手続の流れ....特許権を取得するまでの流れは大きく三つの段階に別れます。
1)出願
法令で規定された所定の書式を特許庁に提出します。その書類は,願書,明細書,図面,要約書の四種類です。明細書と図面が重要で、相当な経験がないと作成は困難です。弁理士に委託することが多いようです。
出願書類は特許庁で書式が所定通りかという方式審査を受けます。出願日から16月経過しますと公開公報で公開されます。公報は特許庁,通商産業局特許室などや特許庁のネットサービス「特許電子図書館」で閲覧・検索できます。
2)審査

出願は書類を提出して出願簿に登録するだけです。権利化するためには特許庁審査官による審査が必要となります。
出願公開されるとその内容は公知の事実となり、先願主義により特許権取得の優先権を確保できます。但し、出願日から7年以内に審査請求をしないと出願を取り下げたものと見なされ、以後権利化することは出来なくなります。(2001年10月より3年に短縮されるので要注意)
一つの考え方として、出願公開した後自らもその発明、考案内容を積極的に公開することで公知の事実化をしてしまい、他者の出願機会を無くしてしまえば防衛的特許権の目的を達成できますので、敢えて審査請求をしないでも良いケースがあるでしょう。特許権を収益化しようとか、他者とのクロスライセンスに使用したいと考えるならば審査請求を行なうことになります。
審査請求を行ないますと、審査官は実体審査を行ない拒絶すべき理由がないかを調べます。拒絶理由があれば、その旨出願人に通知し、出願人は補正書を提出するなどして権利を主張する機会を得ます。

実体審査でチェックされる要件は以下の項目です。

  • 自然法則を利用した技術思想か
    BM特許の場合はITそのものが自然法則を利用した技術と考えられるので、ITの使い方を効果的に組み込むことが重要となります。
  • 産業上利用できるか、経済的効果を期待できるか
  • 出願前にその技術思想はなかったか
  • その分野を理解している人であれば容易に発明できたのではないか
  • 他人より早く出願したか
  • 公序良俗に違反していないか
  • 明細書の記載は規定どおりか
実体審査の次は最終決定としての特許査定です。拒絶理由がなければ特許権を登録できる権利が得られます。
出願人は特許料を納めて設定登録を申請します。特許番号が付与され特許原簿に登録されることになります。

設定登録された特許権は、特許公報に掲載されます。
3)異議申立
特許公報発行日より6月以内であれば誰でも特許異議申立を行なうことができます。その根拠は、実体審査のチェック項目に関連したものとなりますが、通常は公知の事実であったとか新奇性を否定するものとなります。
異議申立の審理は、三人または五人の審判官の合議によって行なわれます。その結果として特許権維持決定或いは特許権取消決定が行なわれ、結果に不服があれば当事者は審判請求や東京高裁への出訴を行ないます。

6月以内に異議申立がなければ、権利は確定します。
2.出願時の注意事項
1)出願するまでは発表を控える
新聞等への記事掲載,カタログの配布,展示会への出展等は公知の事実となってしまいますので、出願までは公表しないようにします。
2)特許戦略事項
ビジネス・モデルはバリューチェーンを設計し、コンポネント間の機能関係とコスト構造を体系化したものです。そこにITを活用した独創的アイデアを組込むことで特許権化するわけです。ビジネス・モデルそのものはアイデアですから、実現するための具体的方策が必要ですし、その方策に自然法則を使用した技術を使うことで特許権の主張が可能となります。特許戦略を考える上で大きなポイントが三つあります。
第一は、単一の特許だけでビジネス・モデルを構築すると比較的容易に模倣されるということです。複雑にするのも問題なのですが、二つか三つの特許でビジネス・モデルを固めますと、優位性,独自性の継続的確保が可能となります。
第二は、特許権を得る目的です。排他性を強くして自社だけの製品・サービス化を図ったり、権利そのものを収益化する攻撃的戦略があります。もう1つは、他者から特許攻撃を受けないように自分の権利としておく、または他者の特許とのクロスライセンス化のために、交渉材料として確保しておくというような防衛的戦略もあります。この場合、パブリック・ドメインとして権利を確保しておきながらも広く社会に開放する場合もあるでしょう。注意すべきは攻撃的戦略を採用しても、安易な主張は危険を伴うということです。莫大なライセンス料を要求すれば相手は当然に法的手段を取ります。社会的イメージを損なうこともあるでしょう。
第三は、本当に特許権取得が適当なのかということです。技術的アイディアにとどまっているのであれば特許権で良いのですが、一歩勧めてソリューションにまで作り込んでしまえば著作権を備えた製品となります。とりあえず特許権を確保しておき、次にそれを著作権化するというシナリオも考えられます。

3)発明として主張できるのか
主張するためには進歩性と新奇性が前提となります。進歩性とは全く同じではないものの、専門家であれば容易に思いつく程度のアイデアであれば進歩性に欠けることになります。新奇性とは公知ではないということですから、既に特許として出願,確定されている発明のみでなく、新聞や書物等に紹介されていても公知の事実となります。公知か否かは業務プロセスと技術的解決方法の双方で判断されます。
つまり両方とも公知であれば発明としては認められませんが、片方だけでも新奇であれば認定される可能性があります。
4)単なるアイディアにとどまらず、技術的に解決できるか。

アイデアや思いつきだけでは発明になりません。目的,構成,効果を具体的に明示し、技術的解決方法を作動させれば誰でも実現可能でなくてはなりません。その解決方法は進歩性,新奇性のある自然法則を利用した技術的なものである必要があり、他の方法に置き換えても同じ効果が期待できるようなものは、単なる人為的取決めに過ぎないとして発明とは認められません。数学のアルゴリズムなども、単なる記述では自然法則や人間の精神活動ということになりますが、それをコンピュータ・プログラムと一体化すれば発明になることが多いようです。

5)経済合理性
特許権の取得には、出願料金、審査請求料金、特許料などの手続き費用や弁理士費用、そして最も大きい費用として、社員の人件費が必要となります。時間も長期に渡ります。場合によっては、訴訟に発展することもあります。最近、金融機関の間で、出願件数を競い合う事例も見られますが、費用を勘案して本当に価値のあるものに限って、資源の集中投下を行なうべきでしょう。
3.資料の作成
出願時に特許庁に提出する資料は、願書,明細書,図面,要約書の四種類があります。自分で作成して提出する方法もありますが、記入方法が極めて詳細に規定化されており、未経験者が作成したものは方式審査を通らない可能性があります。弁理士に依頼する方が無難でしょう。重要なのは明細書とその説明資料としての図面です。願書と要約書は、明細書が出来れば容易に作成できます。明細書では請求項(クレーム)を列記します。これは新奇性,進歩性のある技術的解決方法であり特許の権利範囲を特定するものとなります。
明細書の作成は弁理士に依頼するとして、まずは弁理士にすべてを理解してもらうために必要な仕様を提供します。提示する内容は以下のようなものが必要となります。
1)対象となる技術分野
業務、技術分野を2,3行で簡単に説明します。
2)従来の技術
従来使われている業務プロセスと技術を説明します。その技術的制約や、そこで失われる業務上の不便、代替策などを説明します。
3)解決しようとする課題
上記2)と重複する点も出ますが、従来技術の欠点を記述します。その欠点の大元の原因・理由を説明すると効果的です。また、欠点から生ずる業務上の不便を説明することで発明の経済効果を強調できます。
4)発明の実施の形態
申請する発明の実施例を説明します。文章より図面の方が説明に有効です。
例えば、
  • システム関連構成図:ハードウエア構成やアプリケーション体系図などで説明します。全体を弁理士に見てもらい、関連する部分のみ抽出するのが効率的でしょう。最終的には公開しますので、必要部分のみに限定すべきです。
  • フローチャート:業務プロセス・フローを提示します。余り詳細ですと理解しづらくなりますので、処理の概要を第三者が理解できるレベルで記述します。
  •  データベース構造:関連するデータベースの構成を提示します。データフローダイヤグラムやテーブルで記 述することになりますが、やはり関連する項目に絞って、かつ理解しやすいレベルで統一することが必要です。
  • データフオーマット:サブシステム間や外部システムとでやり取りするデータのフオーマットを提示します。データのやりとりを説明する際には、コード体系も合わせて説明するとキーの関連付けが容易になります。
以上を揃えますと、業務プロセスの流れの中でデータが何処からどのような形式で入出力・処理され業務処理機能が実行されるかを説明できます。ただし、弁理士はプログラマーではありませんし使用目的も違いますので、システム開発用に作成した資料を提示しても使えないことが多いでしょう。業務の専門家がIT技術者の援助を受けながら作成した方が効率的でしょう
5)発明の効果
結果として従来技術のどこを改善した(出来る)のか、どんな効果が得られた(期待できる)のかを説明します。収益予想やコスト策減の金額などを明示する必要はありません。「大幅なコスト削減が実現できる。」のような表現で充分なようです。
6)図面等の説明
資料の中でさまざまな図面を使いますし、いろいろな専門的用語も出てきます。場合によっては、異名同義、同名異義の用語で弁理士を混乱させることもあるでしょう。用語の定義や、図面への番号付記および簡単な表題付けなどを行なってリスト化しておきます。
7)発明のポイント
要約にあたりますが、従来技術との違いやその効果をまとめます。希望や予想をするような表現ではなく、あくまで事実関係を簡潔に整理しておきます。
4.弁理士への依頼の方法
重要なことは、弁理士は極めて高い守秘義務を持っているということです。ですから一般的にクライアントは一業種一社となっています。良く言われることですが、「特許申請を頼もうとしたら、ウチの業界のことを何も知らないので頼むのを止めてしまった。」とか「銀行関係でBM特許の実績がある事務所を調べて欲しい」という依頼を受けます。どちらも無理だということは、理解できるでしょう。
クライアントは、弁理士に理解できる説明と資料の提供が求められます。弁理士は、自分で理解した上で特許庁より求められる形式と表現に変換しながら、およそ一週間程度で出願書類を作成します。その費用は50万円程度です。しかし、最近はBM特許がブームとなり、企業も特許戦略を強化しているので、どこの特許事務所も極めて多忙です。依頼書を提出しても、即座に着手してもらえる訳ではありません。製品発表や新聞発表などが予定され、公知になる前に出願しなくてはならず、出願の時期を特定されていることが多いようです。出願までの時間を短縮する方法は二つです。

一番は、弁理士への説明、資料提出を迅速化することです。ただし、BM特許は業務とITの専門知識が必要ですので、通常は複数の部門や担当者のチーム作業となります。
弁理士は特許の要件を充たすべく、極めて論理的な質問をしてきます。的確かつ迅速に応答できる人員の手当てが前提となります。

二番は、弁理士の興味を引き付けることです。人間ですから、面白くてやりがいのある案件は無意識に優先順位があがるものです。また、良好な人間関係を作ることも作業の効率化に役立ちます。クライアントが窮するようなするどい質問が出ますが、その時に誤魔化すような態度や「そんな事は自分で考えろ、専門家だろう。こっちは客だ。」というような態度を取れば作業は進展しません。昨年来、BM特許の出願数は急増しています。今年の後半は出願後一年半を過ぎた出願公開が増加します。つまり、かなりの件数の審査請求が始まることになります。弁理士不足が発生するでしょう。弁理士との関係を、出願手続きに限定するのか、審査請求や異議申立があった場合の紛争処理を含めた恒常的関係とするのか、決めておく必要があります。今後は金融機関の知的所有権管理の重要性が飛躍的に高まりますので、できれば有能な弁理士と恒常的な顧問契約を結んでおくべきでしょう。
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